- 薬局の利益は収益-費用:処方箋枚数、技術料、薬剤料のどれか一つが利益になるわけではありません。
- 全国平均は個別薬局の答えではない:厚生労働省の平均値を志望先の処方箋枚数へ掛けて、売上や利益を推計しないようにします。
- 就職先研究では数字の意味を確認する:売上、費用、利益、人員、給与、業務内容を分けて見ます。
この記事は、薬局経営を詳しく分析するためというより、薬学生が求人票や会社説明会で見た数字を誤読しないための基礎ページとして作っています。就職活動中に企業を比較するとき、薬局見学の前後、調剤報酬を学び直すときに見返せるように構成しています。
調剤薬局は、どうやって利益を出しているのでしょうか。処方箋をたくさん受ければ利益が増える、薬剤師が算定する技術料がそのまま利益になる、と考えると少し違います。
基本はシンプルで、薬局が得た収益から、医薬品等費・給与費・店舗運営費などの費用を差し引いた後に利益が残ります。したがって、処方箋枚数、薬剤料、技術料、初任給のどれか一つだけで薬局の経営状態を判断することはできません。
私は薬剤師として勤務し、調剤薬局チェーンで薬剤師採用、人事、経営企画に携わった後、中小企業診断士として医療事業者の経営支援にも関わってきました。この記事では、前半で厚生労働省の資料から確認できる事実を整理し、後半で経営を見る際の私自身の考え方を分けて説明します。
調剤薬局の利益は収益から費用を引いた残り
薬局経営を理解するときは、最初に収益・費用・利益を分けます。ここが曖昧だと、技術料や処方箋枚数をそのまま利益と結びつけやすくなります。
| 用語 | 薬学生向けの考え方 | 代表例 |
|---|---|---|
| 収益 | 薬局が事業によって得るお金 | 薬剤料、技術料など |
| 費用 | 事業を行うために必要なお金 | 医薬品等費、給与費、店舗費用など |
| 利益 | 収益から費用を差し引いて残るお金 | 収益-費用 |
売上規模が大きくても費用が大きければ利益が多いとは限りません。反対に、売上の伸びが小さくても費用とのバランスによって利益が残る場合があります。
利益が残るまでを3段階で見る
処方箋受付、調剤、薬学的管理などを通じて収益が生まれます。ただし、この時点ではまだ利益ではありません。
医薬品を仕入れ、薬剤師や事務職員を配置し、店舗・システム・設備を維持するための費用がかかります。
薬局ごとに収益構成も費用構造も異なるため、同じ処方箋枚数でも残る利益は同じとは限りません。
薬局の収益には技術料・薬剤料などがある
厚生労働省の令和6年度 調剤医療費(電算処理分)の動向では、令和6年度の調剤医療費は8兆4,008億円でした。内訳は技術料2兆3,251億円、薬剤料6兆592億円、特定保険医療材料料165億円です。
| 区分 | 令和6年度 | 構成割合 | 処方箋1枚当たり |
|---|---|---|---|
| 技術料 | 2兆3,251億円 | 27.7% | 2,594円 |
| 薬剤料 | 6兆592億円 | 72.1% | 6,760円 |
| 特定保険医療材料料 | 165億円 | 0.2% | 18円 |
| 合計 | 8兆4,008億円 | 100% | 9,372円 |
処方箋1枚当たり技術料2,594円は全国平均です。患者構成、処方内容、算定項目などは薬局ごとに異なるため、2,594円×志望店舗の処方箋枚数という計算で個別店舗の技術料や利益を推計することは適切ではありません。
技術料とは何か
令和6年度の統計では、技術料には調剤技術料と薬学管理料などが含まれます。技術料2兆3,251億円のうち、調剤技術料は1兆2,249億円、薬学管理料は1兆1,002億円でした。
技術料は、薬局が行った調剤や薬学的管理などに対して調剤報酬上評価された収益です。ただし、薬剤師の給与費、設備費、システム費なども必要なので、技術料そのものが利益という意味ではありません。
薬剤料とは何か
薬剤料は、調剤した医薬品について薬価に基づいて算定される部分です。令和6年度の調剤医療費では72.1%を占めていますが、薬局は医薬品を卸売業者等から仕入れるため、薬剤料の裏側には大きな医薬品等費があります。
薬価と仕入価格に差が生じる場合はありますが、その差だけで薬局全体の利益は分かりません。薬局には給与費、店舗費用、設備費、システム費などもあるためです。


薬局は何にお金を使っている?
収益の次に見るのが費用です。厚生労働省の医療経済実態調査では、保険薬局の費用として給与費、医薬品等費、委託費、減価償却費、その他の経費などが調査されています。
| 費用 | 具体例 | 薬学生が理解しておきたいこと |
|---|---|---|
| 医薬品等費 | 処方薬等の仕入れ | 薬剤料の収益には対応する仕入費用がある |
| 給与費 | 薬剤師・事務職員等の給与や法定福利費 | 薬剤師の給与も薬局経営上は費用の一部 |
| 店舗関連費 | 賃借料、水道光熱費等 | 立地や店舗形態で負担が変わる |
| 設備・システム関連 | 調剤機器、電子薬歴、IT、減価償却等 | 業務効率化にも費用が必要 |
| その他 | 委託費、消耗品、管理費等 | 売上以外の費用も利益に影響する |
つまり、収益が増えても同時に医薬品等費や給与費などが増えれば、利益が同じ割合で増えるわけではありません。薬局経営では、売上の大きさだけでなく、その売上を生み出すためにどのような費用が必要だったかまで見る必要があります。
実際の薬局ではどれくらい利益が残っている?
厚生労働省の第25回医療経済実態調査報告では、法人の保険薬局1,018施設について、令和6年度の平均損益差額率は4.9%でした。
4.9%は調査対象となった法人保険薬局の平均結果です。適正利益率や優良薬局の基準を示す数字ではありません。同じ調査でも店舗数、立地、調剤基本料などで損益状況に違いがあるため、志望先へそのまま当てはめないようにします。
この平均値の役割は、個別企業を判定することではなく、薬局では収益のほぼすべてがそのまま利益として残るわけではないと理解するための基準点を持つことです。個社の経営状態を確認する場合は、公開されている決算書やIRなど別の情報が必要です。


ここからは運営者の見方|薬局の数字を5段階で読む
ここからは、厚生労働省が薬局をこの順序で評価しているという意味ではありません。薬剤師、調剤薬局の人事・経営企画、中小企業診断士として経営支援に関わってきた私が、薬局の数字を見る際に使っている整理方法です。
薬剤料、調剤技術料、薬学管理料など、どのような業務から収益が生じているかを把握します。大きい・小さいと評価する前に、収益の中身を分けます。
医薬品等費、人件費、店舗関連費用、設備・システム費などを確認します。売上と費用はセットで見ます。
利益は収益と費用の差です。ただし、利益率が高ければ無条件に良いという意味ではなく、設備投資、人材投資、成長段階なども考えます。
公開情報がある企業なら、売上・費用・利益が数年間でどう動いているかを確認します。売上が伸びているのに利益が減っている場合は、どの費用が増えたのかを見ます。
出店・閉店、人員配置、在宅、対人業務、患者構成、調剤報酬改定への対応などと数字を結びつけます。学生が経営分析を完結させる必要はありませんが、収益→費用→利益→推移→背景の順序を知っておくと、一つの数字を過大評価しにくくなります。
薬局経営で誤解しやすい5つの数字
薬学生が就職先を調べるときに、数字から別の結論へ飛びやすいポイントを一つの表にまとめます。迷ったらここだけ見返してください。
| 見つけた数字 | 短絡しやすい見方 | 実際に確認すること |
|---|---|---|
| 売上高 | 売上が大きい=利益が大きい | 費用を引いた後に利益がどれだけ残るか |
| 技術料 | 技術料=利益 | 技術料は収益。業務に必要な人件費・設備費も見る |
| 処方箋枚数 | 枚数が多い=効率が良い | 人員配置、処方内容、営業時間、在宅等を合わせる |
| 人件費 | 低いほど良い経営 | 必要な人員を配置し、安全・教育・業務を維持できているか |
| 初任給 | 高い=経営に余裕がある | 基本給、手当、固定残業代、昇給、人員体制と分けて見る |
特に技術料については、会計上は薬剤料と同じく収益です。一方、私は薬局の収益構造を見るとき、薬剤料には大きな仕入費用が対応し、技術料・薬学管理料には薬局の機能や薬剤師業務が反映されるため、両者をまったく同じ意味の売上としては見ていません。
ただし、これは技術料が利益に近いという意味ではありません。技術料を生み出すためにも薬剤師の人件費、設備、システムなどの費用が必要です。収益の中身を理解する指標として見るという位置づけです。
薬剤師の給料と薬局利益は同じ方向に動くとは限らない
薬剤師の給与は薬局にとって給与費に含まれる費用です。ただし、利益が高い薬局だから必ず給与も高い、利益が低い薬局だから給与も低い、という関係ではありません。
給与は、会社の給与テーブル、採用競争、勤務地、役割、勤務時間、各種手当などでも決まります。また、企業に利益が残っても、その全額を翌年の給与へ回すわけではなく、設備更新、システム投資、新規出店、借入返済、運転資金の確保などへ配分する場合があります。
経営側から見ると、人件費は単に削ればよい費用でもありません。薬局では薬剤師・事務職員等が業務を担うため、必要な人員を減らしすぎれば、患者対応、教育、安全管理、営業時間、提供できるサービスにも影響します。私は、人件費の高低より、その人員でどのような業務と収益を作れているかを合わせて見ます。
2026年の調剤報酬改定でも利益の基本構造は変わらない
令和8年度診療報酬改定では、診療報酬本体が2026年6月1日に施行され、調剤についても調剤基本料、医薬品供給体制、対人業務、在宅、賃上げ・物価対応などの評価が見直されました。最新情報は厚生労働省|令和8年度診療報酬改定についてで確認できます。
改定によって個々の収益項目は変わりますが、収益から費用を差し引いた後に利益が残るという基本構造は変わりません。ある点数が上がったから利益も同じだけ増える、ある評価が下がったから薬局全体の経営が同じ幅で悪化する、と一項目だけで判断しないことが重要です。

在宅・教育・成長性も利益だけでは判断できない
利益と就職先としての働きやすさは別の軸です。在宅や対人業務を積極的に行っている、教育制度を整えている、店舗数が増えているといった情報も重要ですが、それだけで収益性や働きやすさを断定することはできません。
| 情報 | そこから分かること | 別に確認すること |
|---|---|---|
| 在宅・対人業務 | 薬局が担っている機能の一部 | 訪問効率、人員、時間、設備、夜間対応等 |
| 教育制度 | 会社が用意した育成の仕組み | 配属後の指導、独り立ち基準、相談先、面談等 |
| 店舗数・売上の増加 | 事業規模が拡大している可能性 | 費用、利益、人員・教育、既存店と新規出店の影響 |
| 高い利益 | 一定期間に収益が費用を上回った結果 | 仕事内容、勤務条件、給与制度、教育、配属等 |
就職先選びでは公開情報・質問・推測を分ける
薬学生が薬局経営の知識を就職活動で使うときは、情報を3種類に分けると整理しやすくなります。特に非上場薬局では詳細な損益計算書が公開されていないことも多いため、分からない利益率を処方箋枚数や求人票だけから推計しないことが大切です。
| 情報の種類 | 例 | 使い方 |
|---|---|---|
| 公開情報 | IR、有価証券報告書、決算説明、採用情報 | 確認できる事実として使う |
| 企業へ質問する情報 | 配属、人員、教育、給与制度、業務内容 | 説明会・見学・面接で具体化する |
| 推測しかできない情報 | 非公開店舗の利益率、詳細原価等 | 無理に計算・断定しない |
数字を質問へ変えると企業研究で使いやすい
| 知りたいこと | 質問例 |
|---|---|
| 業務構成 | 新卒配属店舗では、調剤以外にどのような業務を経験しますか |
| 人員配置 | 処方箋枚数や業務内容に応じて、薬剤師の配置はどのように決めていますか |
| 給与 | 初任給の内訳と、その後の昇給制度を教えていただけますか |
| 教育 | 店舗配属後は、独り立ちまでどのような指導体制になっていますか |
| 制度変更への対応 | 2026年の調剤報酬改定を受けて、現場の業務体制で変えた点はありますか |



薬学生が就職前に確認したい経営関連情報
学生が経営者と同じレベルで財務分析をする必要はありません。就職先研究では、次の項目を確認できれば十分です。すべて揃わなければ応募できないという意味でもありません。
- 会社全体の店舗数と主な事業
- 上場企業なら直近数年の売上・利益の推移
- 新卒配属店舗で経験する主な業務
- 処方箋枚数や業務内容に対する人員配置の考え方
- 初任給の内訳と昇給制度
- 店舗配属後の教育・相談体制
- 直近の調剤報酬改定で変えた業務体制
分からない情報がある場合は、無理に数字を推計するより、公開情報で分かることと、説明会・見学・面接で確認することを分ける方が実用的です。
よくある質問
- 調剤薬局は何で利益を出しているのですか。
-
薬局は薬剤料・技術料などの収益を得て、そこから医薬品等費、給与費、店舗運営費などの費用を差し引いた後に利益が残ります。技術料や薬剤料のどちらか一方がそのまま利益になるわけではありません。
- 技術料は薬局の利益ですか。
-
技術料は収益であり、利益そのものではありません。技術料を得るためにも薬剤師の給与費、店舗・設備・システム等の費用が必要です。ただし、薬局がどのような業務で収益を生み出しているかを見る材料にはなります。
- 薬剤料はそのまま薬局の利益になりますか。
-
なりません。薬局は医薬品を仕入れるため、薬剤料という収益に対して医薬品等費が発生します。さらに給与費や店舗運営費なども必要なので、薬剤料だけから薬局全体の利益は判断できません。
- 処方箋枚数が多い薬局ほど利益も多いですか。
-
処方箋枚数は収益機会に関係しますが、利益は枚数だけでは決まりません。処方内容、算定項目、人員配置、人件費、営業時間、店舗費用なども関係するため、枚数の多さだけでは判断できません。
- 処方箋1枚当たり技術料2,594円を使えば店舗売上を計算できますか。
-
個別店舗の売上推計には使わない方がよいです。2,594円は令和6年度の全国平均で、患者構成、処方内容、算定項目等は店舗ごとに異なります。全国平均に店舗の処方箋枚数を掛けても、その店舗の実際の技術料にはなりません。
- 利益率4.9%なら良い薬局ですか。
-
4.9%は第25回医療経済実態調査における法人保険薬局の令和6年度平均で、優良薬局の基準ではありません。店舗数や立地などでも損益状況は異なるため、個別企業へそのまま当てはめないでください。
- 初任給が高い薬局は経営状態も良いですか。
-
初任給だけから経営状態は判断できません。給与は地域の採用競争、会社の給与制度、基本給と手当の設計などでも決まります。初任給の金額と、会社の利益、人員配置、昇給制度は分けて確認してください。
- 非上場の薬局で財務情報が見つからない場合はどうすればよいですか。
-
処方箋枚数や求人票から独自に利益率を推計して断定する必要はありません。公開情報で確認できる範囲を整理し、配属、人員、教育、給与制度など働き方に直結する情報は説明会・見学・面接で確認する方が実用的です。
まとめ|薬局の利益は一つの数字では決まらない
調剤薬局の利益を理解するときは、処方箋枚数や売上の大きさだけではなく、収益→費用→利益の順に整理することが基本です。薬剤料も技術料も収益であり、そのまま利益になるわけではありません。
また、全国平均の技術料や利益率は、個別薬局の数字を推計するためではなく、薬局全体の構造を理解するための基準点として使います。就職先研究では、公開情報、企業へ質問する情報、推測しかできない情報を分けてください。
- 薬局の数字を見たら、まず収益・費用・利益のどれかを分類する
- 全国平均と個別企業の数字を混同していないか確認する
- 一つの数字だけで会社の良し悪しを決めない
- 公開情報で分からない働き方は説明会・見学・面接で質問する
- 必要に応じて調剤報酬、決算書、就職先比較の記事へ進む
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