薬学生が就職先選びで確認したい5つの数字|元人事部長が比較方法を解説

執筆・編集:こさか先生公開日:
この記事でわかること
  • 薬学生が就職先候補を比較するときに確認したい5つの数値項目
  • 初任給は総額だけでなく、基本給・手当・固定残業代まで見る理由
  • 年間休日、残業時間、平均勤続年数、新卒離職者数の確認方法
  • 処方箋40枚という法令上の基準が、何を意味し何を意味しないのか
  • 公開企業の財務情報を就活でどこまで見るとよいか
  • 数字だけでは判断できない教育・配属・仕事内容をどう確認するか

就職先を比較するとき、初任給や会社説明会の印象だけで決めていませんか。

もちろん、給与も説明会で感じた雰囲気も大切です。

ただ、候補企業が複数になったときは、同じ条件で比較できる数字をいくつか持っておくと判断しやすくなります。

私は薬剤師として調剤薬局チェーンに勤務し、人事部長として新卒・中途の薬剤師採用や人事制度に携わってきました。その後は経営企画にも携わり、現在は中小企業診断士として医療・介護事業者の経営支援も行っています。

採用側と経営側の両方から就職先を見ると、学生が確認できる数字には大きく2種類あります。

  • 自分の働き方に直接関係する数字:給与、休日、残業、定着、店舗の人員体制など
  • 会社そのものを見る数字:利益、純資産、キャッシュフローなど

この記事では、その中から薬学生が比較しやすい5項目に絞ります。

この記事の対象

主に調剤薬局チェーンや調剤併設ドラッグストアなど、民間企業への就職を想定しています。

病院就職でも給与・休日・残業・定着などは比較できますが、処方箋枚数や企業財務の見方は異なります。

目次

結論|1つの数字で良い会社・悪い会社は決められない

最初に、この記事で最も大切な考え方をお伝えします。

初任給○万円以上、平均勤続年数○年以上、自己資本比率○%以上といった合格ラインを作る必要はありません。

企業の特徴はそれぞれ違うため、一つの数字だけで就職先の良し悪しを決めることはできないからです。

数字は会社を落とすためではなく、候補企業を同じ条件で横並びにして、違いを見つけるために使います。

この記事で確認する5項目は次のとおりです。

確認する数字主に分かること主な確認先
1.初任給の内訳入社直後の給与構成募集要項・求人票・労働条件通知
2.年間休日・残業時間仕事に使う時間の条件募集要項・職場情報・採用サイト
3.勤続・新卒定着情報社員構成・定着状況の手がかり青少年雇用情報・採用サイト
4.処方箋枚数・薬剤師配置配属候補店舗の業務量を考える材料会社説明会・店舗見学・採用担当者
5.会社の財務推移企業全体の事業・財務状況IR・有価証券報告書・決算公告等

重要なのは、数字の大小ではなく、その数字が何を意味するかです。

1.初任給の総額ではなく内訳を見る

薬学生の就職活動では、どうしても初任給が目に入りやすくなります。

しかし、同じ月給35万円でも内訳が同じとは限りません。

月給の内訳
A社基本給35万円
B社基本給30万円+資格手当5万円
C社基本給30万円+固定残業代5万円

この3社は月給だけを見れば同じ35万円です。

しかし、給与制度としての意味は違います。

まず確認したいのは次の項目です。

  • 基本給
  • 薬剤師手当・資格手当
  • 勤務地・地域手当
  • 固定残業代の有無
  • 固定残業代が何時間分・いくらなのか
  • 賞与・昇給制度

固定残業時間と実際の残業時間は別

固定残業代が20時間分含まれているからといって、毎月必ず20時間残業するという意味ではありません。

逆に、固定残業時間を超えて時間外労働をした場合には、超えた分について別途割増賃金の支払いが必要です。

厚生労働省は、求人で固定残業代を含める場合について、固定残業代を除く基本給、固定残業時間と金額、超過分を追加支給することなどを明示するよう求めています。

厚生労働省|固定残業代に関する労働条件の明示

初任給を見るときのポイント

月給の高さだけで順位をつけず、何が基本給で、何が手当なのかまで分解して比べます。

住宅支援や奨学金返還支援まで含めて経済条件を比べたい場合は、次の記事で詳しく整理しています。

奨学金返済を前提にした就職先の総合評価法|初任給・住宅手当・返済支援で比較

2.年間休日と残業時間を見る

給与と同じくらい、就職後の生活へ直接影響するのが時間です。

最低限、次の数字を確認します。

  • 年間休日
  • 所定労働時間
  • 月平均所定外労働時間
  • 有給休暇の平均取得日数

ここでも「年間休日○日以上なら良い会社」という基準は作りません。

休日数だけでは、実際の勤務形態が分からないからです。

たとえば同じ年間休日数でも、

  • 完全週休2日を基本にする会社
  • 曜日固定で休む店舗
  • シフト制で月ごとに休日が変わる会社

では働き方が異なります。

年間休日と有給休暇は別の数字

年間休日と有給休暇の取得日数も分けて見ます。

年間休日が何日あるかと、そのうえで有給休暇をどの程度取得しているかは別の情報です。

また、会社全体の月平均残業時間が短くても、自分が配属される店舗や職種でも同じとは限りません。

会社全体の平均値なのか、薬剤師だけの数字なのか、店舗単位の数字なのかまで確認できれば、より正確に比較できます。

厚生労働省の若者向け職場情報提供制度では、前事業年度の月平均所定外労働時間や有給休暇の平均取得日数などが情報提供項目になっています。

厚生労働省|職場情報の提供制度

3.平均勤続年数と新卒の定着情報を見る

3つ目は、人がどの程度その会社に残っているかを考える数字です。

候補になるのは、

  • 平均勤続年数
  • 直近の新卒採用者数
  • 新卒採用者の離職者数
  • 企業が独自に公表していれば新卒定着率

などです。

厚生労働省の職場情報提供制度でも、直近3事業年度の新卒採用者数・離職者数と平均勤続年数が情報提供項目になっています。

厚生労働省|新卒者等への職場情報の提供制度

平均勤続年数が短いだけで悪い会社とは判断しない

平均勤続年数は便利な数字ですが、単独で会社を評価することはできません。

たとえば、

  • 設立してから年数が浅い
  • 新規出店を続けて従業員数が急増している
  • M&Aなどで社員構成が大きく変わった
  • 近年になって新卒採用を大幅に増やした

会社では、平均勤続年数が短くなることがあります。

反対に平均勤続年数が長いことだけで、新卒教育が充実しているとも判断できません。

平均勤続年数は合否ラインではなく、「なぜこの数字になっているのか」を考えるための材料として使います。

新卒採用者数と離職者数も確認する

薬学生であれば、会社全体の勤続年数だけでなく、できれば若手社員の状況も確認したいところです。

たとえば採用人数が急増している会社であれば、

  • 研修体制は採用人数に追いついているか
  • 新人をどのような店舗へ配属するか
  • 入社後に誰が教育を担当するか

といった別の疑問も生まれます。

数字を見た後に「なぜ」を確認することが重要です。

4.処方箋枚数は薬剤師配置とセットで見る

調剤薬局へ就職するなら、配属候補店舗の業務量も気になると思います。

そのとき確認したいのが、

  • 1日の平均処方箋枚数
  • 通常何人の薬剤師が勤務しているか
  • 事務職員などを含む店舗の人員体制
  • 在宅、一包化など業務内容
  • 新人が一人勤務になる時間帯があるか

です。

処方箋枚数は単独では見ません。

同じ1日100枚でも、薬剤師の人数や処方内容、設備、在宅業務の有無などによって業務の状況は大きく異なるからです。

処方箋40枚は新人に適した業務量を示す数字ではない

薬局について調べると「処方箋40枚」という数字を見ることがあります。

現行の厚生労働省令では、薬局で調剤に従事する薬剤師の員数について、原則として1日平均取扱処方箋数を40で除して得た数以上とする基準があります。

ただし、この40枚は、

  • 薬剤師一人が毎日40枚までなら忙しくない
  • 新卒薬剤師には40枚がちょうどよい
  • 40枚以下なら教育環境が良い

という意味ではありません。

薬局に必要な薬剤師員数を定めるための法令上の配置基準です。

厚生労働省|薬局並びに店舗販売業及び配置販売業の業務を行う体制を定める省令

新卒薬剤師にとって重要なのは、処方箋枚数の絶対値よりも、

  • 誰と一緒に勤務するのか
  • いつから一人で判断するのか
  • 困ったとき誰へ相談できるのか
  • 教育期間と独り立ちの基準があるか

です。

新卒で一人薬剤師になる可能性がある場合に確認したいことは、次の記事で詳しく整理しています。

新卒で一人薬剤師は大丈夫?調剤薬局の配属前に確認したい7項目

また、入社後の配属店舗がどのように決まるのかはこちらで解説しています。

新卒薬剤師の配属ガチャ問題|入社後の配属先はどう決まる?

5.公開されていれば会社の財務推移を見る

最後は、会社そのものを見る数字です。

ここまでの4項目に比べれば、財務情報は少し難易度が上がります。

すべての薬学生が決算書を詳しく分析する必要はありません。

ただし、上場企業や情報開示の多い企業を比較するのであれば、公開情報から、

  • 売上高の推移
  • 利益の推移
  • 純資産の推移
  • 営業キャッシュフロー等

を確認できる場合があります。

ここでも、営業利益率○%以上、自己資本比率○%以上という合格ラインは置きません。

一つの年度や一つの比率だけではなく、複数年で大きな変化がないかを見る方が重要です。

財務情報から分からないことも多い

たとえば上場している親会社の連結決算を確認しても、その数字が自分の配属候補店舗の経営状態をそのまま示すわけではありません。

複数事業を行う会社であれば、ドラッグストア事業、調剤事業、その他の事業が一つの決算に含まれている場合もあります。

また、非上場企業では学生が入手できる財務情報に限界があります。

情報が公開されていないことだけを理由に、危険な会社と判断することもできません。

上場企業はEDINETやIRを確認できる

有価証券報告書等の提出対象企業であれば、金融庁のEDINETから開示書類を無料で検索できます。

金融庁|EDINET(閲覧サイト)

企業自身が公開するIR情報や決算説明資料も確認できます。

決算書を薬学生がどう読むかは、次の記事で詳しく説明しています。

薬局の決算書と経営指標の読み方

5つの数字はどこで確認できる?

ここまでの数字をすべて面接で質問する必要はありません。

私は採用に携わっていた立場から、公開情報で分かることは先に調べ、公開情報だけでは分からないことを説明会や面接で確認する方法をおすすめします。

数字最初に確認したい場所分からない場合
初任給の内訳募集要項・求人票採用担当者へ確認
年間休日・残業採用サイト・求人票・青少年雇用情報説明会等で勤務制度を確認
勤続・新卒定着青少年雇用情報・採用サイト情報提供を依頼する
処方箋枚数・薬剤師配置会社説明会・店舗見学配属候補店舗について質問
財務推移IR・EDINET・公開されている決算公告無理に推計しない

厚生労働省の職場情報提供制度では、新卒者等は一定の職場情報について企業へ情報提供を求めることができる仕組みがあります。

事前に公表されていない場合でも、応募者本人やハローワーク、学校、職業紹介事業者等を通じて情報提供を求める方法が案内されています。

厚生労働省|職場情報の提供制度

3社を同じ表に並べると違いが見えやすい

情報を集めたら、頭の中だけで比較せず、一度同じ表に並べてみることをおすすめします。

確認項目A社B社C社
基本給
固定残業代
年間休日
月平均所定外労働時間
平均勤続年数
新卒採用・離職情報
配属候補店舗の処方箋枚数
通常の薬剤師配置
財務情報

ここで点数をつける必要はありません。

たとえば、

  • A社は給与が高いが固定残業代を含む
  • B社は給与は少し低いが休日が多い
  • C社は新卒採用人数が多く、教育体制をさらに確認したい

というように、自分が追加で確認したい論点を見つけるために使います。

数字を比較するときに守りたい4つのルール

  1. 同じ定義の数字を比較する
    会社全体と薬剤師だけ、年間休日と有給取得日数などを混ぜない。
  2. 同じ時期の数字を比較する
    一方が2023年度、もう一方が2026年度では単純比較しない。
  3. 会社全体と店舗の数字を分ける
    会社平均の残業時間や利益が、自分の配属店舗と同じとは限らない。
  4. 数字から分からないことまで推測しない
    勤続年数から人間関係、利益率から教育制度などを自動的に決めつけない。

この4点だけでも、求人情報の読み間違いはかなり減らせます。

数字だけでは分からないこともある

数字は便利ですが、就職先選びのすべてではありません。

たとえば、

  • 新人教育の具体的な内容
  • 配属希望の通りやすさ
  • 一人薬剤師になる時期
  • 困ったときの相談体制
  • 職場の人間関係
  • 実際に担当できる業務
  • 自分が希望するキャリアとの相性

などは、1つの数値だけでは分かりません。

公開情報を確認したうえで、数字だけでは分からないことを説明会や面接で確認します。

薬剤師の就活で使える逆質問は、次の記事で具体的に整理しています。

薬学部生の逆質問|薬剤師の就活で聞くべき質問と職場の見極め方

配属先がどう決まるのか気になる場合はこちらです。

新卒薬剤師の配属ガチャ問題|入社後の配属先はどう決まる?

元人事部長として就職先の数字をどう見るか

ここからは、公的な基準ではなく、調剤薬局チェーンで採用・人事に携わってきた私個人の見方です。

私は、学生が財務指標まで完璧に分析してから応募する必要はないと思っています。

むしろ大切なのは、

  • 求人票の数字をそのまま受け取らず、内訳を確認する
  • 会社全体の平均と、自分の働く店舗を混同しない
  • 数字に違いがあれば、その理由を考える
  • 公開情報で分からないことだけを質問する

ことです。

たとえば平均勤続年数が短ければ、すぐに悪い会社と判断するのではなく、近年採用人数を増やしたのかもしれないと考える。

処方箋枚数が多ければ、忙しい会社と決めつけるのではなく、何人の薬剤師でどのような設備を使って対応しているのかを確認する。

数字そのものより、「その数字を見て次に何を確認するか」が企業研究では重要だと考えています。

よくある質問

年間休日が多い会社を選べばよいですか。

年間休日は重要な比較項目ですが、日数だけで会社の良し悪しは決められません。休日の取り方、シフト、有給休暇、残業時間なども合わせて確認してください。また、年間休日と有給休暇の取得日数は別の数字です。

平均勤続年数が短い会社は避けた方がよいですか。

平均勤続年数だけでは判断できません。会社の設立時期、近年の採用人数、M&Aや出店による人員増加などでも数字は変わります。新卒採用者数・離職者数など他の情報と合わせて確認してください。

薬剤師1人あたり処方箋40枚以内なら安心ですか。

そのようには判断できません。処方箋40枚という数字は、薬局で調剤に従事する薬剤師の員数を算定する法令上の基準です。新人教育や働きやすさ、業務負荷の適正水準を示した基準ではありません。実際には薬剤師配置、処方内容、在宅、設備、教育・相談体制などを合わせて確認します。

非上場の薬局で財務情報が見つからない場合は避けた方がよいですか。

財務情報が十分に公開されていないことだけで避ける必要はありません。非上場企業では学生が入手できる情報に限界があります。公開情報の範囲を確認し、数字が分からない場合に求人票や処方箋枚数から独自に利益を推計して経営状態を断定することはおすすめしません。

財務の数字は面接で質問した方がよいですか。

有価証券報告書やIRなど公開情報で確認できることは、まず自分で確認することをおすすめします。面接では教育、配属、働き方など採用担当者から具体的な説明を得やすい内容を優先し、公開情報を読んだうえで生じた疑問を質問する方が情報を集めやすいと私は考えています。

まとめ|数字は会社を落とすためではなく比較するために使う

薬学生が就職先を比較するときに確認したい数字を5項目に整理しました。

  • 初任給の内訳
  • 年間休日・残業時間
  • 平均勤続年数・新卒定着情報
  • 処方箋枚数・薬剤師配置
  • 公開されていれば会社の財務推移

どの項目にも、全国共通の合格ラインは置いていません。

給与が高い会社にも理由があり、平均勤続年数が短い会社にも理由があります。

処方箋枚数が多いことだけで忙しいとは決められず、自己資本比率が高いことだけで良い職場とも言えません。

数字の役割は、会社に点数をつけることではなく、候補企業の違いを見つけて次に確認する質問を作ることです。

初任給や説明会の印象だけでは決めきれないときは、まず3社程度を同じ表に並べてみてください。

就職先を一つ多い角度から比較できるようになります。

参考にした主な一次資料

目次