- 薬学部生で奨学金返還額が大きくなりやすい理由
- 私立薬学部で第二種奨学金を月14万円まで利用できる仕組み
- 就職先を見るときに、私が手取りに対する返還額15%を一つの目安にしている理由
- 初任給だけでなく住宅費・返還支援まで見るべき理由
- 企業の代理返還や薬学生・薬剤師向け自治体支援の確認方法
- 返還が難しくなったときに使えるJASSOの制度
1000万円近い奨学金がある。就職先は給与だけで選ぶべきでしょうか
私立薬学部で6年間学び、卒業時には奨学金がかなり残る。そうなると、就職先を選ぶときに給与が気になるのは当然です。
私は、奨学金が大きい学生ほど給与をきちんと見るべきだと考えています。
一方で、最も初任給が高い会社を選べばよい、とも思いません。
同じ月給でも、家賃が8万円か3万円か、企業による奨学金返還支援があるか、転勤によって生活費が変わるかで、毎月残るお金は大きく変わるからです。
私は薬剤師として働いた後、調剤薬局チェーンで人事責任者を務め、現在は中小企業診断士として薬局経営にも関わっています。採用と経営の両方を見てきた立場から、奨学金を返しながら働くことを前提に、就職先をどう見ればよいかを整理します。
奨学金が数百万円から1000万円規模になることは珍しくない
薬学部は6年制で、私立では学費負担も大きくなりやすいため、卒業時の奨学金残高が数百万円単位になることがあります。私自身は4年制時代の卒業生ですが、それでも576万円の奨学金を社会人になってから返済をしています。
まずは、自分の貸与総額がどのくらいになるのかを具体的に確認しておきましょう。
JASSOの第二種奨学金は、大学では通常月2万円から12万円まで選択できますが、私立大学の薬学・獣医学課程では12万円に2万円を増額し、月14万円まで利用できます。
月14万円を6年間、72か月利用した場合の貸与総額は1,008万円です。
厚生労働省が薬学5・6年生を対象に実施したアンケートでは、回答者2,302人のうち805人、35%が奨学金を利用していました。返済予定総額に回答した545人では平均650万円、1,000万円以上と回答した学生は143人でした。
厚生労働省|薬学生の奨学金利用状況(薬学5・6年生アンケート)
この調査自体は2022年公表資料ですが、卒業時に数百万円から1,000万円超の返還予定額を抱えるケースが実際にあることは確認できます。
採用に携わっていた際にも、数百万円単位の奨学金返還を予定している学生と接することはありました。就職先を考えるときに、給与や住宅費、返還支援まで確認するのは自然なことです。
第二種奨学金は、昔の低金利を前提に返還額を決めない
第二種奨学金を利用している場合は、元金だけでなく利率も確認します。
JASSOの第二種奨学金は、貸与開始時ではなく貸与終了月に利率が決まります。
2026年度に入ってから利率は以前より高い水準になっており、2026年7月に貸与終了した人の基本月額では、利率固定方式が年3.000%、利率見直し方式が年2.000%でした。
私立薬学部で12万円に2万円を増額している場合、増額部分は原則として基本月額の利率に0.2%を上乗せし、最終的には基本部分と増額部分を借用額で加重平均して適用利率が決まります。
そのため、過去の1%台の利率をそのまま使って、自分の返還総額を確定させない方がよいでしょう。
私は返還額が手取りの15%を超えるかを一つの目安にする
ここからが、私が使っている考え方です。
奨学金が500万円、800万円、1,000万円と聞くと、残高の大きさに目が行きます。
もちろん残高は重要です。ただ、実際の生活を左右するのは、毎月いくら返し、その返還額が手取り収入の何%を占めるかです。
そこで私は、次の比率を見ます。
返還負担率 = 毎月の奨学金返還額 ÷ 手取り月収
そして、私なら15%を超えたところから、住宅費や返還支援まで含めてかなり慎重に見るようにします。
| 手取り月収 | 10% | 15% | 20% |
|---|---|---|---|
| 20万円 | 2万円 | 3万円 | 4万円 |
| 25万円 | 2.5万円 | 3.75万円 | 5万円 |
| 30万円 | 3万円 | 4.5万円 | 6万円 |
15%を超えたら返還不能、という意味ではありません。
ただ、家賃、食費、水道光熱費、通信費、保険、交通費などを払った後に、貯蓄や自己投資へ回せる余地が小さくなりやすいと私は考えています。
特に20%近くなる場合は、給与額だけでなく住宅制度や返還支援まで見ないと、就職後の家計がかなり窮屈になる可能性があります。
1,008万円なら、元金だけを20年で割っても月4.2万円
先ほどの月14万円を72か月利用した1,008万円のケースを考えてみます。
JASSOの定額返還方式では、貸与総額が大きい場合は返還期間が最長20年、240回になります。
1,008万円を240回で単純に割ると、元金だけでも月4.2万円です。第二種では実際には利子が加わります。
仮に手取り25万円なら、元金だけの単純計算でも16.8%に相当します。
こういう学生に対して、私は給与を気にせずやりたい仕事だけで選べ、とは言いません。給与と固定費を真剣に見るべき水準だと思います。
15%という数字は、就職先を切るためではなく家計を点検するために使う
15%という数字を使う目的は、この会社なら安全、この会社なら危険と機械的に判定することではありません。
私が見たいのは、奨学金返還が毎月の固定支出としてどれだけ家計を圧迫するかです。
たとえば手取り25万円で返還額が2万円なら8%です。返還額が4万円なら16%、5万円なら20%になります。
同じ手取り25万円でも、実家から通える人と、都市部で家賃8万円を負担する人では余裕が違います。だから15%だけを見て判断するのではなく、15%を超えたところから住宅費や固定費をさらに細かく見る、という使い方をします。
私なら次のように考えます。
| 返還負担率 | 私ならどう見るか |
|---|---|
| 10%未満 | 奨学金以外の固定費を通常どおり確認する |
| 10〜15% | 住宅費を含めた毎月の残額を確認する |
| 15〜20% | 給与・住宅支援・返還支援を重視して就職条件を比較する |
| 20%以上 | 私はかなり重い負担と見る。家賃や支援制度まで含めた具体的な家計試算を行う |
15%という線に絶対的な意味があるわけではありません。しかし、何の基準も持たずに月給だけを見るより、私はずっと判断しやすいと思っています。
奨学金が大きいなら、初任給を重視するのは間違いではない
就活では、給与よりやりがいを重視すべきという話もあります。
私は、奨学金を数百万円返す学生に対して、給与を気にしない方がよいとは言いません。
毎月4万円、5万円を長期間返すのであれば、初任給や住宅費を重視するのは合理的です。
問題は、初任給だけを切り取ることです。
- 月給は高いが住宅補助がない
- 月給は少し低いが借上社宅を利用できる
- 給与は同程度だが代理返還がある
- 全国勤務手当は高いが転居が多い
こうした違いがあるため、給与を重視するならなおさら、給与以外の固定費も一緒に見る必要があります。
私は、経済条件で無理のない就職先を残したうえで、その中から仕事内容や教育を比較するという順序が現実的だと考えています。
就職活動を始めたら、自分用の返還メモを1枚作る
奨学金返還を漠然と不安に思うより、一度数字にした方が考えやすくなります。
私は、就職先を比較する前に次の項目を1枚にまとめておくことをおすすめします。
| 項目 | 書き込む内容 |
|---|---|
| 貸与総額 | 自分のJASSO等の実額 |
| 毎月の返還予定額 | JASSOの返還条件・シミュレーションで確認 |
| 想定手取り | 求人の額面から一律に決めず、入社後に実額へ更新 |
| 返還負担率 | 毎月返還額 ÷ 手取り月収 |
| 住宅費 | 家賃・社宅自己負担・住宅手当を反映 |
| 返還支援 | 企業・自治体の対象額と期間 |
このメモを作ると、1000万円という残高の大きさだけに圧倒されず、毎月の生活として考えられるようになります。
第一種・第二種の返還額だけでなく、手取りや住居費、企業の代理返還を入力して、毎月の負担や早期完済した場合の違いを確認できます。
→ 薬学部生の奨学金返済シミュレーターを使う
修学資金の返還免除と、JASSO代理返還は同じ制度ではない
奨学金返還支援を調べていくと、在学中に修学資金を借り、卒業後に指定された病院や薬局等で一定期間勤務すると返還が免除される仕組みもあります。
これは、すでに借りているJASSO奨学金を企業が直接返還する代理返還とは仕組みが違います。
修学資金型では、勤務先や勤務期間が条件になっているケースがあります。厚生労働省の2026年資料でも、返還支援期間の1.5倍以上の勤務などを条件にする自治体が確認できます。
金額が大きい制度ほど魅力的に見えますが、私は支援額と同じくらい、卒業後に何年間・どこで働く条件なのかを確認した方がよいと思っています。
初任給は大事。ただし業態名ではなく、実際の条件で見る
就職先としては、調剤薬局、ドラッグストア、病院、企業、公務員など複数の選択肢があります。
業態によって給与水準に違いはありますが、私は業態名だけで返還余力を決めません。
同じ調剤薬局でも全国勤務と地域限定で給与が違うことがあります。同じ月給でも住宅手当や借上社宅の有無が違います。病院でも施設によって給与体系は大きく異なります。
厚生労働省の薬学5・6年生アンケートでも、就職先決定の決め手として業務内容・やりがいが33%で最も多く、勤務予定地13%、給与水準12%が続いていました。また病院への就職を希望しない学生では、給与水準を理由の第1位に挙げた人が48%でした。
奨学金返還があるなら、給与を気にするのは現実的な判断です。
だからこそ、求人票では最低でも次を確認します。
- 基本給と毎月の手当
- 固定残業代の有無
- 住宅手当・借上社宅
- 配属地域と転勤範囲
- 奨学金返還支援
- 賞与・昇給制度
複数の内定先を実際に比較するときは、初任給・住宅支援・奨学金返還支援を比べる方法で詳しく整理しています。
奨学金返還支援も就職条件の一つとして確認したい
奨学金返還が大きい学生ほど、返還支援制度は確認してよいと思います。
JASSOの代理返還は全業種の制度だが、就職先選びには使える
JASSOには、企業等が従業員に代わって奨学金返還残額の一部または全部をJASSOへ直接送金する代理返還制度があります。
2026年3月末時点では全国4,852社が利用しています。薬局や医療機関だけではなく全業種の数字ですが、自分が検討している企業が制度を導入しているかを確認する入口として使えます。
会社名・地域・業種から検索できるため、候補企業が制度を導入しているかを確認できます。
薬学部生・薬剤師を対象にした自治体支援もある
JASSO以外にも、薬学部生や薬剤師を対象にした自治体の支援があります。
厚生労働省の2026年資料では、2026年1月時点で14県が薬剤師・薬学生を対象とした奨学金返還支援制度を設けていると整理されています。
病院勤務を対象にした制度が多い一方、薬局を対象に含む県もあります。
自治体ごとの最新条件は、薬剤師・薬学生対象の奨学金返還支援制度で確認してください。
返還支援制度は、金額だけで選ばない
ここは人事側にいた経験から、かなり重要だと思っています。
月3万円支援、総額180万円支援と書かれていると魅力的に見えます。
ただし確認するのは金額だけではありません。
- 誰が対象になるか
- 何年間支援されるか
- JASSOへの代理返還か、給与として支給されるのか
- 勤務区分や勤務地に条件があるか
- 会社独自の修学資金なら、途中退職時の条件はどうなるか
- 基本給や住宅制度を含めた給与体系全体はどうなっているか
私は、返還支援制度がある会社だから良い会社、とまでは考えません。
逆に、支援制度がないから悪い会社とも考えません。
自分の返還負担をどれだけ下げられるかと、その代わりにどんな条件が付くのかをセットで見ることが重要です。
私なら、奨学金が大きい学生ほどこの順番で就職先を絞る
- 自分の毎月返還額をJASSOで確認する
- 手取りに占める返還額が15%を超えるかを見る
- 15%を超えるなら、給与・住宅費・返還支援を特に重く見る
- その条件で生活できる会社を残す
- その中から仕事内容・教育・勤務地・将来のキャリアで選ぶ
この順番なら、奨学金を無視して理想だけで選ぶことも、奨学金だけを理由に最高給与の会社へ飛びつくことも避けやすくなります。
奨学金返還が大きい学生にとって、給与は重要です。そこを綺麗事で外す必要はありません。
ただし、給与は目的ではなく、返還しながら自分のキャリアを続けるための条件として見るのがよいと私は考えています。
返還が厳しくなったときは、返還条件を変更できる制度もある
就職時に計画を立てても、病気、失業、収入減などで返還が難しくなる可能性はあります。
JASSOには減額返還制度があり、一定の要件を満たせば毎月の返還額を3分の2、2分の1、3分の1または4分の1に減らし、返還期間を延長できます。適用期間の上限は通算15年です。
さらに、一定期間返還を待ってもらう返還期限猶予制度もあります。一般猶予の適用期間は原則として通算10年です。
奨学金は一度決めた返還計画を、何があっても20年間変えられない制度ではありません。返還が厳しくなった場合は、延滞する前に制度を確認してください。
まとめ|15%を一つの目安に、給与と生活費を現実的に見る
卒業時の奨学金残高は、数百万円から1,000万円を超えることもあります。
私は、奨学金返還を考えながら就職先を選ぶなら、毎月の返還額が手取りの15%を超えるかを一つの目安にします。
15%を超えるなら、給与だけでなく住宅費、返還支援、勤務地まで含めて家計を見た方がよい。20%近いなら、私はかなり重い負担として考えます。
一方で、15%という数字だけで人生を決める必要もありません。
給与、住宅費、返還支援によって毎月残るお金は変わりますし、仕事内容や教育も将来のキャリアには重要です。
奨学金があるから給与を気にするのは当然。ただし、最高給与ではなく、自分が返還を続けながら納得して働ける条件を探す。
これが、奨学金返還を前提に就職先を選ぶときに、私が大切だと考えている判断軸です。
