薬学部の奨学金返済はいくら?厚労省調査と返還が難しいときの制度を解説

執筆・編集:こさか先生公開日:最終更新日:
この記事でわかること
  • 厚労省調査で確認できる薬学5・6年生の奨学金利用状況
  • 「平均650万円」と「薬局薬剤師約446万円・15年」が別の調査である理由
  • 自分の奨学金について、卒業前に確認しておきたい数字
  • 返還月額を減らせるJASSOの減額返還制度
  • 一時的に返還を待ってもらえる返還期限猶予制度
  • 企業・自治体による返還支援と、就職先比較を別に考える理由

卒業後、奨学金を本当に返していけるのだろうか。

6年制の薬学部に通いながら奨学金を利用していると、就職が近づくにつれて返還額が現実的な問題になってきます。

インターネットでは、薬学生の奨学金は平均450万円、650万円、返済期間15年など、さまざまな数字が出てきます。

しかし、これらは同じ対象者を調査した数字ではありません。

この記事では厚生労働省と日本学生支援機構(JASSO)の資料をもとに、数字の意味を分けて整理します。

そのうえで、自分の返還条件をどう確認するか、返還が難しくなった場合にどのような制度があるかまで解説します。

制度情報は2026年9月9日時点で確認しています。

目次

薬学部生の奨学金はいくら?まず2つの厚労省調査を分けて見る

薬学生の奨学金を考えるとき、まず知っておきたいのが厚生労働省の2つの調査です。

一つは薬学5・6年生を対象とした調査、もう一つはすでに働いている病院・薬局薬剤師を対象とした調査です。

調査対象主な結果数字の意味
薬学5・6年生アンケート薬学5・6年生805人・35%が奨学金を利用
返済予定総額回答者の平均650万円
学生が将来返済する予定の金額
薬剤師調査薬局薬剤師返済総額平均 約445.6万円
返済期間平均15.0年
すでに薬剤師として働く回答者の返済状況

650万円と約446万円を、過去と現在の薬学生の平均として単純比較してはいけません。

調査対象も回答者数も、質問している内容も異なるからです。

薬学5・6年生は35%が奨学金を利用

厚生労働省の第12回「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」資料では、薬学5・6年生2,302人の奨学金利用状況が示されています。

その結果、奨学金を利用していた学生は805人、35%でした。

さらに、奨学金等の返済予定総額について回答した545人では、平均650万円でした。

1,000万円以上と回答した学生も143人います。

厚生労働省|薬学生の奨学金利用状況(薬学5・6年生アンケート)

650万円は全薬学生の平均ではありません

650万円は、薬学5・6年生2,302人全員の平均ではありません。

奨学金等の返済予定総額について回答した545人の平均です。

自分の返還予定額を考える際は、この平均値をそのまま自分に当てはめるのではなく、実際の貸与額・返還方式を確認してください。

薬局薬剤師の返済総額平均は約445.6万円、返済期間平均は15.0年

別の厚生労働省「薬剤師確保のための調査・検討事業」では、すでに働いている病院・薬局薬剤師について、奨学金等の返済金額と返済期間を調査しています。

薬局薬剤師では、返済総額の回答者416人の平均が4,455,848.7円、約445.6万円でした。

中央値は360万円です。

返済期間について回答した410人では、平均15.0年、中央値も15年でした。

薬局薬剤師の調査項目平均中央値
返済総額約445.6万円360万円
年間返済額約59.0万円24万円
返済期間15.0年15年

厚生労働省|薬剤師確保のための調査・検討事業報告書

この数字についても、薬局薬剤師全員の平均という意味ではありません。

調査に回答した薬局薬剤師のうち、各設問に回答した人の結果です。

返済15年は卒業後の家計にどう影響する?

返済期間15年という数字は、かなり長い期間です。

たとえば24歳で薬剤師として働き始め、その後15年間返還すると仮定すれば、返還が続くのは39歳頃までになります。

もちろん、実際の返還期間は奨学金の種類、貸与総額、返還方式、繰上返還などによって異なります。

それでも15年という期間は、

  • 一人暮らし
  • 結婚
  • 子育て
  • 住宅購入
  • 転職や働き方の変更

などのライフイベントと重なる可能性のある長さです。

奨学金返還は、単に毎月いくら引き落とされるかだけではなく、長期間続く固定支出として家計の中に置いて考えることが大切です。

まず自分の奨学金返還条件を確認する

平均650万円や15年という統計を見るより先に、本当に重要なのは自分がいくら借りて、いくら返すのかを把握することです。

就職先を決める前に、少なくとも次の項目を一度書き出してみてください。

確認項目自分の条件
奨学金の種類第一種/第二種/その他
貸与総額     万円
貸与終了予定   年  月
返還開始予定   年  月
毎月の返還予定額     円
年間の返還予定額     円
返還終了予定   年  月
企業・自治体等の返還支援あり/なし/未確認
就職後の想定生活費     円/月

JASSOの奨学金であれば、スカラネット・パーソナル等で自分の返還情報を確認できます。

第二種奨学金では利子が付くため、貸与総額と最終的な返還総額が同じとは限りません。

平均値ではなく、自分の数字を基準に生活設計を作ることが出発点です。

毎月の返還が難しくなったら減額返還制度がある

卒業後、病気や収入減少などによって、当初の約束どおりの月額を返還することが難しくなることもあります。

JASSOには、そのような場合に利用できる減額返還制度があります。

減額返還制度は、返還月額を減らせば返還を継続できる人について、適用期間に応じて返還期間を延長しながら月々の返還額を減らす制度です。

2026年9月時点では、当初の返還月額を次の割合へ減額できます。

選択できる返還月額考え方
3分の2当初月額の約66.7%
2分の1当初月額の50%
3分の1当初月額の約33.3%
4分の1当初月額の25%

1回の願い出で適用される期間は12か月までで、条件を満たせば継続して願い出ることができ、通算適用期間は最長15年です。

日本学生支援機構|減額返還制度の概要

減額返還は返還総額を減らす制度ではない

減額返還制度は、返還すべき元金そのものを減額する制度ではありません。

毎月の返還額を小さくする代わりに、返還期間を延ばして返していく仕組みです。

また、減額返還には収入・所得等の条件があり、願い出れば自動的に認められるわけではありません。

自分が対象になるかは、必ずJASSOの最新条件を確認してください。

一時的に返還できない場合は返還期限猶予もある

返還月額を減らしても返還することが難しい場合には、返還期限猶予制度があります。

返還期限猶予は、災害、傷病、経済困難、失業などの事情によって返還が困難な場合に、一定期間返還期限を先送りする制度です。

一般猶予では、原則として1年ごとに願い出を行い、経済困難や失業等の取得年数に制限がある事由は、他の対象事由と合わせて通算10年が上限です。

一方、傷病、生活保護受給中、産前産後休業・育児休業など、一部の事由には10年の上限がありません。

日本学生支援機構|返還を待ってもらう(返還期限猶予)

返還期限猶予も、元金や利子を免除する制度ではありません。

猶予された分だけ返還終了時期が後ろへ延びます。

返還が難しいと感じた段階で、延滞する前に制度を確認することが重要です。

第一種奨学金では所得連動返還方式も確認する

第一種奨学金では、所得に応じて毎月の返還額が決まる所得連動返還方式を利用している場合もあります。

これは、返還が苦しくなった後に申請する減額返還制度とは別の仕組みです。

自分が第一種奨学金を利用している場合は、定額返還方式なのか所得連動返還方式なのかも確認しておきましょう。

日本学生支援機構|所得連動返還方式

企業による奨学金返還支援もある

奨学金の返還負担を軽減する方法は、JASSOの制度だけではありません。

企業が従業員に代わってJASSOへ奨学金を直接返還する企業等の奨学金返還支援(代理返還)制度もあります。

JASSOによると、2026年3月末時点で全国4,852社が代理返還制度を利用しています。

日本学生支援機構|企業等の奨学金返還支援(代理返還)制度

私自身、調剤薬局の人事実務で奨学金返還支援制度の設計に関わった経験があります。

返還支援は従業員にとっての福利厚生であると同時に、企業側にとって採用・定着施策の一つとして利用されることがあります。JASSOも制度の企業側メリットとして、若手人材へのアプローチや人材確保、雇用安定等を案内しています。

ただし、返還支援制度があることだけで、その会社の経営状態や教育体制、働きやすさまで判断することはできません。

支援制度を比較するときは、支援額だけではなく、対象となる奨学金、支援期間、在籍条件、途中退職時の扱いなどを確認してください。

初任給・住宅支援・企業の代理返還まで含めて内定先を比較したい場合は、次の記事で詳しく整理しています。

奨学金返済を前提にした就職先の総合評価法|初任給・住宅手当・返済支援で比較

自治体にも薬剤師・薬学生向けの返還支援がある

自治体によっては、特定地域で働く薬剤師や薬学生等を対象に奨学金返還を支援する制度があります。

ただし、制度によって、

  • 病院勤務のみが対象
  • 薬局勤務も対象
  • 対象地域が限定される
  • 一定期間の勤務が必要
  • 申請時期が就職前に限定される

など、条件は大きく異なります。

薬剤師・薬学生を対象とする制度については、47都道府県の公式情報を調査した記事にまとめています。

【2026年版】薬剤師・薬学生対象の奨学金返還支援制度|47都道府県の自治体を調査

奨学金返済を踏まえた就職先選びは別に考える

この記事でまず整理してほしいのは、

  • 自分はいくら返すのか
  • 毎月いくら返すのか
  • 何年返すのか
  • 返還が難しくなった場合に使える制度は何か

という返還そのものの現在地です。

そのうえで、就職先の給与、住宅費、返還支援等を考えます。

奨学金返済を踏まえて業態や就職先をどう選ぶかは、次の記事で具体的に解説しています。

奨学金返済を考慮した就職先の選び方|年収と返済シミュレーション

特に、手取りに対して返還額がどの程度の負担になるかを考えたい場合は、こちらの記事へ進んでください。

よくある質問

薬学部生の奨学金は平均650万円ですか。

薬学部生全体の平均650万円という意味ではありません。厚労省の薬学5・6年生アンケートでは、2,302人のうち805人・35%が奨学金を利用しており、奨学金等の返済予定総額について回答した545人の平均が650万円でした。自分の返還予定額は実際の貸与情報から確認してください。

薬剤師は平均15年間奨学金を返すのですか。

薬剤師全員が15年返すという意味ではありません。厚労省の薬剤師調査で、奨学金等の返済期間について回答した薬局薬剤師410人の平均が15.0年、中央値も15年でした。実際の返還期間は貸与総額や返還方式等によって異なります。

奨学金の返還が苦しくなったらどうすればよいですか。

JASSOの貸与奨学金では、条件を満たせば月々の返還額を減らす減額返還制度や、一定期間返還を先送りする返還期限猶予制度を利用できる場合があります。延滞してからではなく、返還が難しいと感じた段階でJASSOの最新条件を確認してください。

奨学金返還支援がある会社を選べば安心ですか。

制度があることは経済条件としてプラスになりますが、それだけで就職先の良し悪しは判断できません。対象奨学金、支援額、支援期間、在籍条件等を確認したうえで、給与、住宅費、教育体制、仕事内容、勤務地など別の条件と合わせて比較してください。

まとめ|まず自分の返還額・期間を数字で把握する

薬学部生の奨学金について、平均450万円、650万円、15年といった数字だけが独り歩きすることがあります。

しかし、実際には調査対象が異なります。

  • 薬学5・6年生2,302人のうち奨学金利用者は805人・35%
  • 返済予定総額回答者545人の平均は650万円
  • 薬局薬剤師の返済総額回答者416人の平均は約445.6万円
  • 返済期間回答者410人の平均は15.0年

これらは、自分の返還額を決める数字ではありません。

まず、自分がいくら借り、毎月いくら返し、いつまで返還が続くのかを確認してください。

そのうえで、就職後の生活費や給与、企業・自治体の返還支援を組み合わせて考えます。

もし卒業後に返還が難しくなった場合には、JASSOの減額返還や返還期限猶予を利用できる可能性があります。

奨学金返還は長期間の固定支出になり得ますが、返還条件と利用できる制度を数字で把握すれば、卒業後の生活設計を具体的に考えられるようになります。

参考にした主な一次資料

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