薬剤師として働いた先に、いつか自分の薬局を持ちたいと考える人もいると思います。
ただ、薬局を開業するには薬剤師免許と資金を用意すればよい、というものではありません。
どのような薬局をつくるのかを考え、資金を準備し、物件・設備を法令上の基準に合わせ、薬局開設許可を受け、公的医療保険で調剤するための保険薬局指定や保険薬剤師登録を整え、その後も事業として運営していく必要があります。
私は薬剤師として勤務した後、調剤薬局チェーンで人事・経営企画に携わり、現在は中小企業診断士として医療・介護分野の経営支援にも関わっています。
この記事では独立を勧めるのではなく、薬局を開業するという選択肢にはどのような工程があるのかを、2026年時点の公的資料をもとに薬学生にも分かるように整理します。
- 薬局開業までの全体工程を7段階で整理できる
- 薬局の開設者と管理者の違いを理解できる
- 薬局開設許可・保険薬局指定・保険薬剤師登録の違いが分かる
- 資金・物件・許認可を別々ではなく一つの計画として考えられる
- 薬学生の段階でどこまで準備すればよいか判断できる
本記事は2026年9月10日時点で確認できる法令・行政資料を基準にしています。薬局開設許可の必要書類・審査基準、保険薬局指定の申請期限等は地域や時期によって異なるため、実際に開業を検討する段階では管轄行政・地方厚生局の最新情報を確認してください。
結論|薬局開業は7つの工程で考える
薬局開業は完全な一本道ではありません。
事業構想、資金、物件、人員などは並行して検討します。
それでも、全体像は次の7工程に分けると理解しやすくなります。
新規に薬局をつくるのか、既存薬局を引き継ぐのかなど、入口を整理します。
誰に、どのような薬局機能を提供するのか、地域ニーズや自分の経験を踏まえて整理します。
物件・内装・設備・医薬品在庫等の初期資金と、開業後の運転資金を分けて見積もります。
薬局開設許可の構造設備基準を確認し、必要に応じて行政へ事前相談しながら設計を進めます。
所在地を管轄する都道府県知事等へ薬局開設許可を申請します。
公的医療保険で調剤を行う場合は保険薬局指定を受け、調剤に従事する薬剤師の保険薬剤師登録等も確認します。
資金繰り、人員配置、安全管理、調剤報酬、地域連携などを継続して管理します。
開業日はSTEP7の始まりであって、ゴールではありません。
この考え方が、薬局開業ロードマップの基本です。
薬局の開設者は薬剤師でなければならない?
薬学生にとって意外かもしれませんが、薬局の「開設者」と「管理者」は同じ意味ではありません。
薬機法第7条では、薬局開設者が薬剤師である場合と、薬剤師でない場合の両方が規定されています。
| 立場 | 薬学生向けの整理 |
|---|---|
| 薬局開設者 | 薬局を開設し、事業運営の責任を負う主体。薬剤師でない場合も制度上想定されている |
| 薬局管理者 | 薬局を実地に管理する薬剤師。従業者、構造設備、医薬品等を管理する |
開設者が薬剤師でない場合は、その薬局で薬事に関する実務に従事する薬剤師の中から管理者を指定する必要があります。
つまり、
薬局を経営する主体と、薬局を薬事上実地管理する薬剤師は、制度上分けて考える
ことができます。
薬剤師自身が独立する場合でも、経営者としての仕事と薬局管理者としての責任を区別して理解しておくと、開業後の役割が見えやすくなります。
STEP1|新規開業か既存薬局の承継かを考える
薬局を自分で持つ方法は、ゼロから新規開業するだけではありません。
既存の薬局や薬局事業を引き継ぐ方法もあります。
| 比較 | 新規開業 | 既存事業の承継 |
|---|---|---|
| 事業設計 | 構想をゼロから設計する | 既存事業を確認したうえで引き継ぐ |
| 物件・設備 | 新たに準備する | 引継ぎ対象に含まれる場合がある |
| 患者・取引 | 開業後に形成していく | 既存関係を引き継ぐ場合がある |
| 確認事項 | 地域需要、物件、開業後の事業性 | 財務、契約、人員、設備、許認可の取扱い等 |
どちらが優れているという話ではありません。
承継方法によって法人・事業・許認可の扱いも変わり得るため、実際に検討する場合は個別の契約形態と行政手続きを確認します。
STEP2|どのような薬局をつくるのか事業構想を整理する
物件を探す前に、私はまず「どのような薬局をつくるのか」を言葉にした方がよいと考えています。
例えば、
- どの地域で開業するのか
- 地域にどのような医療・薬局ニーズがあるのか
- どのような患者に対応するのか
- 在宅、地域連携、OTC等をどの範囲で行うのか
- 何人程度の薬剤師・事務職員が必要なのか
- どのような営業時間・運営体制にするのか
を整理します。
2026年度の調剤報酬改定でも、地域の医薬品供給、在宅、対人業務、地域連携など薬局機能の評価が見直されています。
ただし「制度上評価される項目を多く取れば成功する」ということではありません。
事業構想では、制度と地域需要、自分が実際に提供できる機能をつなげます。
調剤報酬の基本は、薬学生のための調剤報酬の基本で確認してください。
STEP3|設備資金と運転資金を分けて考える
薬局開業資金に、全国共通の正解額はありません。
必要額は、
- 物件
- 内装
- 調剤設備・システム
- 医薬品の初期在庫
- 採用人数
- 開業後の家賃・人件費・仕入等
によって変わります。
そのため、最初から「薬局開業には○千万円」と一つの数字を置くより、初期投資と運転資金に分解する方が実務的です。
日本政策金融公庫の2025年度調査は薬局専用統計ではない
創業全般の参考として、日本政策金融公庫総合研究所の2025年度新規開業実態調査があります。
| 項目 | 2025年度調査 |
|---|---|
| 開業費用の平均 | 975万円 |
| 開業費用の中央値 | 600万円 |
| 開業時の平均資金調達額 | 1,219万円 |
| 金融機関等からの借入 | 827万円・67.9% |
| 自己資金 | 279万円・22.9% |
ただし、この調査は日本政策金融公庫が融資した新規開業企業を対象にした全業種の調査です。
975万円を「薬局開業の平均額」として使うことはできません。
自己資金22.9%も、融資審査で必要な最低自己資金率ではありません。
ここから確認できるのは、創業一般では自己資金だけでなく金融機関等からの借入を組み合わせている企業が多いということです。
薬局開業資金をさらに詳しく考えたい場合は、薬局開業に必要な資金はいくら?初期投資・運転資金と資金計画を解説へ進んでください。
STEP4|物件を決める前に薬局開設基準を確認する
物件は、家賃や人通りだけで選べません。
薬局として開設許可を受けるには、構造設備の基準を満たす必要があります。
厚生労働省の薬局等構造設備規則では、代表的な基準として、
- 薬局の面積はおおむね19.8平方メートル以上
- 調剤室は6.6平方メートル以上
- 十分な換気と清潔性
- 他の場所との明確な区画
- 冷暗貯蔵設備、鍵のかかる貯蔵設備
などが定められています。
ただし、実際の審査では法令だけでなく地域の審査基準・運用も確認します。
例えば大阪市は、薬局開設許可について許可基準・審査基準があるため事前に相談するよう案内しています。
物件候補を見つける → 設計・契約を確定する → 許可基準を確認するではなく、候補段階で構造設備基準や行政の審査基準を確認し、必要に応じて事前相談しながら進める方が安全です。
立地は重要ですが、立地だけで薬局の収益や事業の成否が決まるわけではありません。
地域需要、賃料、人員、競合、調剤報酬、在宅等の事業構造をまとめて考えます。
STEP5|薬局開設許可を申請する
薬局を開設するには、薬機法第4条に基づく薬局開設許可が必要です。
申請先は、薬局の所在地に応じて都道府県知事、保健所を設置する市の市長、特別区の区長等となります。
薬局開設許可では、構造設備だけでなく、薬局の業務を行う体制等も含めて確認されます。
必要書類や申請方法は管轄行政によって確認してください。
STEP6|保険薬局指定と保険薬剤師登録を確認する
薬局開設許可を受けることと、公的医療保険を使って調剤できる保険薬局になることは別です。
ここは薬学生が混同しやすいので、3つに分けて整理します。
| 制度 | 対象 | 役割 |
|---|---|---|
| 薬局開設許可 | 薬局という施設 | 薬機法上、薬局を開設するための許可 |
| 保険薬局指定 | 保険調剤を行う薬局 | 公的医療保険の適用を受ける調剤を行うための指定 |
| 保険薬剤師登録 | 保険調剤に従事する薬剤師 | 健康保険の調剤に従事する薬剤師本人の登録 |
保険薬局指定は地方厚生局へ申請する
健康保険法第65条に基づき、公的医療保険の適用を受ける調剤を行う薬局は、地方厚生(支)局長による保険薬局指定を受ける必要があります。
近畿厚生局の2026年の案内では、保険薬局指定申請の添付書類として薬局の開設許可証の写し等が求められています。
申請締切は全国一律ではない
現在の近畿厚生局では、指定申請等の締切日は事務所・指導監査課ごとに異なると案内しています。
したがって、実際に開業する場合は希望開業日から逆算し、管轄厚生局の最新締切と必要書類を確認します。
保険薬剤師登録は薬剤師本人の手続き
健康保険法第64条では、保険薬局で健康保険の調剤に従事する薬剤師は保険薬剤師として登録を受ける必要があります。
近畿厚生局は2026年現在、薬剤師免許取得後に初めて保険薬局で勤務するときは保険薬剤師登録が必要と案内しており、マイナポータルによるオンライン申請も可能になっています。
近畿厚生局|保険医・保険薬剤師の登録等に関するオンライン申請
オンライン資格確認の準備も逆算する
2026年現在、新規に保険薬局指定を受ける場合、オンライン資格確認の導入が原則として義務付けられています。
厚生局の案内では、指定希望月より前から準備が必要になる手続きも示されています。
そのため、保険薬局指定は申請書を提出する日だけを見るのではなく、システム・受付番号・開局予定日まで含めて逆算します。
STEP7|開業後に必要な経営を考える
許可・指定を受けて薬局を開けば終わりではありません。
経営者としては、例えば、
- 売上・費用・利益
- 資金繰り
- 医薬品在庫
- 採用・人員配置・教育
- 労務管理
- 法令遵守・安全管理
- 調剤報酬改定への対応
- 地域の患者・医療機関・介護事業者との関係
などを継続して考えます。
薬剤師としての専門性と、薬局経営に必要な能力は完全に同じではありません。
薬局経営に必要な知識を整理したい場合は、薬局経営に必要なスキルとは?薬剤師×中小企業診断士が5領域を解説へ進んでください。
売上・費用・利益の仕組みは、調剤薬局はどうやって利益を出す?で詳しく整理しています。
5分ワーク|薬局開業までの工程を並べてみる
ここまでの流れを、5分で整理してみましょう。
次の項目を、実際の開業準備をイメージしながら並べてください。
| 記号 | 工程 |
|---|---|
| A | 保険薬局指定を受ける |
| B | 地域ニーズと事業構想を整理する |
| C | 資金計画をつくる |
| D | 物件候補について構造設備基準を確認し、必要に応じて行政へ事前相談する |
| E | 薬局開設許可を受ける |
| F | 保険調剤に従事する薬剤師の保険薬剤師登録を確認する |
| G | 薬局を開業し、運営を開始する |
1~2分目|一本道にできるもの・できないものを分ける
Bの事業構想とCの資金計画は、どちらかを完全に終えてから次へ進むというより、何度も行き来します。
物件選びも、資金・事業構想と並行して進みます。
3~4分目|順序関係が強い工程を探す
一方で、薬局開設許可と保険薬局指定は同じ手続きではありません。
保険薬局指定申請では薬局開設許可証の写し等が求められるため、薬局開設許可と保険指定を別工程として逆算する必要があります。
保険薬剤師登録は薬剤師本人の手続きなので、保険薬局指定と並行して勤務予定者の状況を確認します。
5分目|自分なら最初に何を調べるか決める
最後に、今の自分なら最初に何を調べるか一つ書いてください。
- 地域需要
- 開業資金
- 薬局開設許可
- 経営に必要な知識
- 将来どのような薬剤師経験を積むか
から一つ選ぶだけでも、独立開業という遠い話を具体的な学びへ変えられます。
薬局開業準備は完全な一本道ではありません。
事業構想・資金・物件・人員は並行して調整します。一方、薬局開設許可、保険薬局指定などには手続き上の順序・期限があります。
この2種類を分けて理解することが、ロードマップを作る目的です。
学生に独立を勧めるワークではありません。
薬剤師には勤務以外のキャリアもあり、薬局を経営する場合には薬事・保険制度・資金・組織運営を統合して考える必要があることを理解する教材として使えます。
薬学生は今すぐ開業準備をする必要はない
この記事を読んだからといって、学生のうちから物件を探したり、開業資金を貯め始めたりする必要はありません。
日本政策金融公庫の2025年度新規開業実態調査でも、全業種の新規開業者の97.6%に勤務経験があり、斯業経験がある割合は81.1%でした。
これは薬局開業者だけの統計ではありませんが、一般的な創業でも実務経験を積んだ後に開業する人が多いことを示す参考になります。
薬学生の段階では、まず薬剤師になるための学修を優先しながら、
- 薬局にも経営という側面がある
- 独立には許認可と保険制度が関係する
- 開業資金は自己資金だけで考えるものではない
- 勤務経験が将来の事業構想にもつながり得る
ことを知っておく程度でも十分です。
在学中にできる準備を具体的に知りたい場合は、将来の独立を見据えて在学中にやっておくと良いこと5選へ進んでください。
ここからは薬剤師・中小企業診断士としての見方
ここまでは主に法令・行政資料・公的調査から確認できる内容を整理しました。
ここからは、薬剤師として勤務し、調剤薬局チェーンの人事・経営企画、中小企業診断士として経営支援に関わってきた私自身の考えです。
私は、開業を考えるときに最も重要なのは「最適な立地を探すこと」でも「できるだけ多く自己資金を用意すること」でもないと思っています。
事業構想、地域需要、資金、物件、人員、制度を同じ事業計画の中でつなげられるかが重要です。
例えば家賃の安い物件でも、必要な薬局機能を実現できなければ意味がありません。
反対に、患者数を多く見込める場所でも、高い固定費や必要人員を含めて資金が回らなければ継続は難しくなります。
一つの条件だけで「良い開業計画」を決めるのではなく、複数の条件をつないだときに事業として成り立つかを見る。
これが、私が薬局開業を経営プロジェクトとして考えるときの基本です。
これは厚生労働省や日本政策金融公庫が示す薬局評価基準ではなく、運営者自身の実務上の見方です。
よくある質問
- 薬局の開設者は薬剤師でなければなりませんか?
-
薬機法は、薬局開設者が薬剤師でない場合も想定しています。ただし、その場合は薬局で薬事実務に従事する薬剤師の中から薬局管理者を指定し、実地に管理させる必要があります。開設者と薬局管理者は分けて理解してください。
- 薬局開設許可と保険薬局指定は何が違いますか?
-
薬局開設許可は薬機法に基づき薬局を開設するための許可です。保険薬局指定は、公的医療保険の適用を受ける調剤を行うために健康保険法に基づいて受ける指定です。申請先も異なります。
- 保険薬局指定を受ければ、薬剤師は誰でも保険調剤できますか?
-
保険薬局で健康保険の調剤に従事する薬剤師は、健康保険法に基づく保険薬剤師登録を受ける必要があります。薬局という事業所の指定と、薬剤師本人の登録は別です。
- 薬局開業資金はいくら必要ですか?
-
全国共通の正解額はありません。物件、内装、調剤設備、医薬品在庫、人員、運転資金等によって大きく変わります。日本政策金融公庫の新規開業実態調査は全業種の参考値であり、薬局開業費の平均としては使えません。
- 学生のうちに開業資金を貯める必要がありますか?
-
今すぐ薬局開業を予定していないのであれば、開業資金全額を学生時代から用意する必要はありません。まず薬剤師になるための学修を優先し、薬局の収益構造、許認可、資金計画などの基本を知っておく程度でも将来の選択肢につながります。
- 新規開業と既存薬局の承継はどちらがよいですか?
-
一律には決められません。新規開業は事業をゼロから設計できる一方、物件・設備・患者基盤等も一から作ります。承継では既存資産や関係を引き継ぐ場合がありますが、財務・契約・人員・設備・許認可の取扱い等を確認する必要があります。
まとめ|独立は「資格+資金」ではなく複数工程をつなぐ経営プロジェクト
薬剤師が薬局を独立開業するときは、薬剤師資格と資金だけを準備すればよいわけではありません。
- 開業形態を考える
- 事業構想をつくる
- 資金計画をつくる
- 物件・設備・人員を具体化する
- 薬局開設許可を受ける
- 保険薬局指定・保険薬剤師登録等を整える
- 開業後の経営を続ける
という複数の工程をつなぐ必要があります。
その中には並行して進めるものもあれば、薬局開設許可と保険薬局指定のように順序・期限を意識する必要があるものもあります。
薬学生の段階で、すべてを実行する必要はありません。
独立開業というキャリアには、薬事・保険制度・資金・組織運営を統合して考える必要がある。
まずその地図を持っておくだけでも十分です。
将来、独立を本当に検討する段階になったときに、このロードマップへ戻り、各工程の最新情報を一つずつ確認してください。
次に知りたい内容に合わせて進んでください。
主な一次資料
- 厚生労働省|医薬品医療機器等法
- 厚生労働省|薬局等構造設備規則
- 大阪市|薬局開設許可申請等
- 厚生労働省|健康保険法
- 近畿厚生局|保険薬局指定申請書関係 添付書類等
- 近畿厚生局|保険医・保険薬剤師の登録等に関するオンライン申請
- 近畿厚生局|保険医療機関・保険薬局関係
- 日本政策金融公庫総合研究所|2025年度新規開業実態調査
制度・手続きは2026年9月10日時点で確認しています。実際の薬局開設許可、保険薬局指定、施設基準、オンライン資格確認、保険薬剤師登録等は地域・開業形態・時期によって必要書類や手順が変わるため、開業時点の管轄行政・地方厚生局の最新案内を確認してください。
