志望動機を書こうとして、手が止まってしまう薬学部生は少なくありません。
患者さんの役に立ちたい。地域医療に関わりたい。薬剤師として専門性を高めたい。
どれもおかしな考えではありません。しかし、そのまま文章にすると、なぜ薬剤師なのか、なぜその働き方なのか、そしてなぜその職場なのかが混ざりやすくなります。
私は調剤薬局チェーンで新卒・中途の薬剤師採用や人事制度に携わり、人事責任者も経験しました。
その経験から感じるのは、志望動機は上手な文章を作ることから始めるより、自分が何を理由に仕事や職場を選ぼうとしているのかを整理してから文章にした方が考えやすいということです。
- 自分の志望動機で不足しているのが「なぜ薬剤師・なぜ業態・なぜその職場」のどこか判断できる
- 複数の就職先を比較し、「なぜここなのか」を整理できる
- 実習・研究・アルバイトなどの経験を、志望理由へどうつなげるか判断できる
- ESに書く場合と面接で話す場合を分けて準備できる
- 3分間のワークを使って、自分の志望動機の材料をその場で整理できる
採用方針や選考方法、志望動機で確認される内容は、応募先や年度によって異なります。本記事では特定の企業・医療機関の採用基準ではなく、薬学部生が自分の志望理由を整理するための考え方を扱います。
志望動機は「なぜ薬剤師・なぜ業態・なぜその職場」の3つに分ける
志望動機を最初から一つの文章として考えると、まとまりにくくなります。
まず、次の3つの問いを分けてみてください。
| 問い | 考える内容 | 不足すると起こりやすいこと |
|---|---|---|
| なぜ薬剤師か | 仕事を通じて何をしたいのか、どのような経験からそう考えたのか | 職業を選んだ理由が見えにくい |
| なぜその業態か | 薬局・病院などの中で、なぜその働き方に関心があるのか | 別の業態でも成立する内容になる |
| なぜその職場か | 同じ業態の複数候補の中で、なぜその職場を選ぶのか | 応募先を変えても同じ文章になる |
志望動機は、採用担当者が好みそうな言葉を探す作業ではありません。
自分が仕事を選ぶ理由と、応募先を選ぶ理由の接点を説明する作業と考えると整理しやすくなります。
最初に「仕事で何を大切にしたいか」を考える
薬学部生の場合、薬剤師を目指す進路を選んだのは何年も前という人も多いでしょう。
そのため、就職活動になって急に「なぜ薬剤師なのですか」と考えても、高校生当時の進路選択までうまく言葉にできないことがあります。
その場合は、無理に昔の理由を作る必要はありません。
今の自分が、薬剤師として働くうえで何を大切にしたいのかから考えてみてください。
- 患者さんへ薬の知識を分かりやすく伝えることにやりがいを感じた
- 実務実習で、処方内容だけでなく生活背景まで考える必要性を感じた
- 研究を通じて、一つの領域を深く調べる面白さを知った
- 多職種で一人の患者さんを支える仕事に関心を持った
- 地域の人が気軽に相談できる場所で働くことに関心を持った
大きなエピソードである必要はありません。
私が薬剤師採用に携わっていたときは、派手な経験があるかどうかよりも、本人がその経験をどう受け止め、現在の進路選択とどう結びつけているのかを聞く方が、その人の考えを理解しやすいと感じていました。
これは私自身の採用実務を通じた見解であり、すべての採用担当者が同じ基準で評価するという意味ではありません。
経験は「事実→考えたこと→今後」の3つに分ける
実習や研究の経験をそのまま志望動機へ入れるだけでは、経験談で終わることがあります。
| 段階 | 整理すること |
|---|---|
| 事実 | 何を経験したか |
| 考えたこと | その経験から何に関心を持ったか |
| 今後 | その関心を仕事でどう深めたいか |
例えば、実務実習で在宅訪問へ同行したという事実だけでは、まだ志望理由は分かりません。
そこで患者さんの服薬状況と生活環境が結びついていることに気づき、卒業後も生活まで見ながら薬物療法を支える仕事に関わりたいと考えたのであれば、進路を考える一つの軸になります。
次に「なぜその業態か」を考える
自分の軸が見えてきたら、次は働き方との接点を考えます。
ここで、薬局なら在宅、病院ならチーム医療、といった言葉を先に当てはめる必要はありません。
同じ薬局でも、主に応需する処方箋、在宅への関わり方、店舗規模、教育体制、配属の考え方などは異なります。
病院も、病院機能、病棟業務、教育体制、診療領域、当直等の働き方は一様ではありません。
業態名そのものではなく、その働き方のどこに自分が関心を持っているのかまで考えることが重要です。
| 主な進路 | 確認したいことの例 |
|---|---|
| 調剤薬局 | 店舗の特徴、処方内容、在宅対応、研修、配属、異動、将来の役割 |
| 病院 | 病院機能、病棟業務、チーム医療、ローテーション、当直・夜勤、研修、専門領域 |
| ドラッグストア | 調剤と店舗業務の関係、OTC対応、配属、店舗運営、将来のキャリア |
| その他の進路 | 職種、具体的な業務内容、勤務地、研修、配属、将来のキャリア |
例えば、患者さんと長く関わりたいという軸があったとしても、それだけで特定の業態が正解になるわけではありません。
どのような場面で、どのように患者さんへ関わりたいのかまで考えると、自分に合う働き方を比較しやすくなります。
「なぜその職場か」は複数の候補を比較すると見つけやすい
志望動機で特に考えにくいのが、なぜ他の薬局・病院ではなく、その応募先なのかという部分です。
ここでは、一社だけを見ながら長所を探すより、同じ業態の複数候補を比較する方が違いを見つけやすくなります。
仕事内容、教育、勤務地、働き方、将来のキャリアなど、自分が確認したい条件を書き出します。すべてを志望動機へ入れるためではなく、まず自分の判断基準を見える形にするためです。
調剤薬局なら複数の薬局、病院なら複数の病院を比べます。公式の採用情報や募集要項などを並べて確認すると、共通点と違いを整理しやすくなります。
説明会や職場見学へ参加した場合は、自分が実際に確認したことを加えます。参加した事実そのものを評価材料と考えるのではなく、就職先を判断するための情報として使います。
最後に、応募先の特徴を褒めるのではなく、自分が仕事で大切にしたいことと接点がある部分を探します。ここが「なぜその職場か」の中心になります。
3分で整理する志望動機ワーク
ここまで読んだら、一度文章を読むのを止めて、3分だけ手を動かしてみてください。
完成した志望動機を書く必要はありません。自分の経験、仕事で大切にしたいこと、応募先との接点を3つに分けて書き出すだけです。
1分目:印象に残っている経験を1つ書く
実務実習、研究、授業、アルバイト、サークル、家族との経験などから、今の自分の進路に少しでも影響している出来事を1つ選びます。
例:実務実習で、患者さんが薬を飲めない理由を生活背景まで確認していた場面が印象に残った。
2分目:その経験から、仕事で大切にしたいことを1つ書く
経験の感想ではなく、そこから自分がどのように働きたいと考えたかを書きます。
例:薬だけを見るのではなく、生活まで考えて患者さんを支えられる薬剤師になりたい。
3分目:応募先を2つ以上思い浮かべ、自分の軸との接点を書く
応募候補を比べながら、自分が大切にしたいことを実現しやすそうなのはどこか、その理由を1つだけ書きます。
例:Aでは新人から在宅同行を経験できる。Bでは病棟業務を段階的に経験できる。自分は生活背景まで見る仕事に関心があるため、どちらの環境が今の自分に合うか、さらに確認したい。
ここで重要なのは、3分で志望先を決めることではありません。
自分の中でまだ整理できていない部分を見つけることが目的です。
「経験は書けるけれど、仕事で大切にしたいことが出てこない」「自分の軸はあるけれど、応募先ごとの違いが分からない」と気づければ、次に何を調べるべきかが見えてきます。
このワークは、個人で考えるだけでなく、キャリア教育や就職支援の場でも使えます。3分間で書いた後に「経験」「仕事で大切にしたいこと」「応募先との接点」のうち、どこで手が止まったかを振り返ると、自分に必要な次の行動を考えやすくなります。
職場名を変えても成立するなら、もう一段比較する
例えば、地域医療に力を入れているから志望する、という文章を書いたとします。
その理由が周辺の多くの薬局や病院にも当てはまるなら、まだ「なぜその職場か」までは整理できていません。
複数の候補を比べることで、例えば次のような違いが見つかることがあります。
- 新人教育の進め方が自分の希望と合っている
- 自分が関心を持つ業務を経験できる
- 配属や異動について確認した内容が、自分の希望する働き方と合う
- 見学で確認した職場の仕事の進め方に納得できた
その違いが自分の軸とつながれば、応募先を選んだ理由として説明しやすくなります。
職場見学や説明会は「評価されるため」ではなく判断材料として使う
職場見学へ行けば有利になる、説明会で質問すれば評価が上がる、と一律に考えることはできません。
採用方法や評価基準は応募先によって異なるためです。
それよりも、自分が就職先を選ぶために何を確認できたかという視点で使う方が実用的です。
見学や説明会へ参加した場合は、次のようなことをメモしておくと比較しやすくなります。
- 実際にはどのような業務へ時間を使っていたか
- 新人教育についてどのような説明があったか
- 配属・異動・勤務体制について確認した内容
- 自分が質問した内容と、その回答
- 公式サイトだけでは分からなかった特徴
- 自分が働く姿を想像したときに、合う・合わないと感じた点
見学していないのに、見学したように書く必要はありません。
公式情報、説明会、実際の見学など、自分が本当に確認した情報だけを材料にしてください。
志望動機は「自分の軸→応募先の特徴→接点→入職後」で組み立てる
材料が集まったら、文章へ組み立てます。
次の4つに分けると整理しやすくなります。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 1.自分の軸 | 仕事で何を大切にしたいのか |
| 2.応募先の特徴 | 比較・確認した結果、その職場にどのような特徴があるのか |
| 3.接点 | なぜその特徴が自分にとって重要なのか |
| 4.入職後 | そこでどのように学び、働きたいのか |
文章の型を先に暗記するのではなく、この4つの材料をそろえてから文章にします。
調剤薬局を志望する場合の考え方
例えば、実務実習を通じて、患者さんが薬を使い続けるには生活背景まで確認する必要があると感じたとします。
その後、複数の薬局を比較し、応募先では新人のうちから関心のある業務を経験でき、配属後の教育方法も自分に合っていると確認できたとします。
この場合は、
- 生活背景まで考えられる薬剤師になりたい
- 応募先ではその経験を積めると考えた
- 教育を受けながら段階的に経験を積みたい
という流れで整理できます。
重要なのは特定のキーワードを書くことではありません。自分がなぜその仕事に関心を持ち、応募先のどの特徴とつながっているのかを説明することです。
病院を志望する場合の考え方
病院でも考え方は同じです。
チーム医療に関心がある、専門性を高めたい、と書くだけでは多くの病院で成立します。
実習や大学での学びから何に関心を持ったのか。その病院ではどのような業務・教育・診療機能を経験できるのか。そして、それが自分の目指す働き方とどうつながるのかを確認します。
病院名を別の病院へ置き換えても文章がそのまま成立する場合は、もう一段比較してみてください。
給与・休日・勤務地も就職先を選ぶ大切な判断材料
給与、休日、勤務地、住宅支援、転勤の有無などは、就職後の生活へ直接影響します。
私は、条件面を重視して就職先を選ぶこと自体に問題があるとは考えていません。
長く働くことを考えれば、自分の生活と合わない条件を無視して就職することにもリスクがあります。
ただし、「給与が高いから」「休みが多いから」という条件だけでは、面接で聞かれるなぜこの職場を志望したのかを十分に説明できない場合があります。
条件面は自分が就職先を選ぶための判断材料として確認し、志望動機では仕事内容・教育・職場の特徴と自分の考えとの接点を整理する。
この2つを分けておくと、条件を無理に隠す必要もありません。
ESに書く志望動機と面接で話す志望動機は伝え方を変える
志望理由の中心は共通でも、ESと面接では伝え方が異なります。
| ES | 面接 | |
|---|---|---|
| 基本 | 指定された設問・文字数に合わせて書く | 最初は要点を伝え、質問に応じて詳しく説明する |
| 情報量 | 必要な背景を文章で補う | すべてを最初から話し切る必要はない |
| 準備 | 文章として読み直す | 丸暗記ではなく理由を説明できる状態にする |
志望動機の文字数に全国共通の正解はありません。応募先から指定がある場合は、その条件に従ってください。
面接では、最初の回答を長くしすぎず、結論と理由を簡潔に話しておくと、その後の質問にもつなげやすくなります。
PREP法は「内容を作る型」ではなく「伝える補助」として使う
PREP法は、Point(結論)→Reason(理由)→Example(具体例)→Point(結論)の順番で伝える方法です。
ただし、PREP法に当てはめれば良い志望動機になるわけではありません。
先に、
- 自分の軸
- 応募先の特徴
- 両者の接点
- 入職後にどう働きたいか
を整理します。
その内容を面接で分かりやすく伝えるための補助として、結論から話す方法を使うという順序です。
ES全体の書き方については、薬学部生のエントリーシートの書き方で整理しています。
面接の質問全体を準備したい場合は、薬学部の就活面接で準備したい質問15選も確認してください。
志望動機が弱くなりやすい5つのパターン
1.誰にでも当てはまる言葉だけで終わる
患者さんの役に立ちたい、地域医療に貢献したいという考え自体に問題はありません。
ただし、その後に「なぜ自分がそう考えたのか」「なぜその応募先なのか」が続かなければ、本人の選択理由は伝わりにくくなります。
2.応募先の公式サイトを要約している
理念、研修制度、地域との関わりなど、応募先が発信している情報を並べるだけでは、応募先の紹介になってしまいます。
その特徴のどこに自分が関心を持ち、なぜ自分の軸と合うと考えたのかまで整理します。
3.条件だけで理由が完結している
給与や休日を重視することは問題ありません。
しかし条件だけでは、同じような条件を持つ別の職場との違いを説明できません。仕事内容や教育など、その職場で働く理由とは分けて考えます。
4.実習・研究の経験を書いて終わる
経験を書くだけでは、過去の説明になります。
その経験から何を考え、卒業後にどのように働きたいと考えるようになったのかまでつなげます。
5.応募先に合わせすぎて自分の考えがなくなる
応募先について調べることは必要です。
一方で、採用されそうな人物像を想像して、自分を無理に合わせた志望動機を作る必要はありません。
志望動機は応募先に評価されるためだけでなく、自分とその職場に本当に接点があるかを確認するためにも使えます。
志望動機を書いたら10項目を確認する
- □ 自分が仕事で大切にしたいことが分かる
- □ なぜその業態を選ぶのか説明できる
- □ なぜその応募先なのか説明できる
- □ 別の職場名へ置き換えても成立する文章になっていない
- □ 自分の経験が単なる思い出話で終わっていない
- □ 応募先の特徴と自分の考えにつながりがある
- □ 公式情報と、自分が実際に確認した内容を混同していない
- □ 給与・休日などの条件だけで志望理由が終わっていない
- □ 入職後にどう働きたいか説明できる
- □ 面接で「なぜ?」と聞かれても自分の言葉で説明できる
10項目すべてを文章へ入れる必要はありません。
考えが止まる項目があれば、文章表現を直す前に、その部分の情報収集や自己整理へ戻ってみてください。
志望動機・自己PR・ES・逆質問は役割が違う
就職活動では似た内容を何度も聞かれますが、それぞれ整理する内容は少し違います。
| テーマ | 主に整理すること |
|---|---|
| 志望動機 | なぜその仕事・業態・職場を選ぶのか |
| 自己PR | 自分にはどのような強みがあり、どう行動してきたか |
| ES | 複数の設問を通じて、自分の考え・経験を文章で伝える |
| 逆質問 | 応募先について自分が判断するために確認する |
自己PRを整理したい場合は、薬学部生の自己PRの書き方へ進んでください。
職場を見極めるために何を確認するか考えたい場合は、薬学部生の逆質問|薬剤師の就活で聞くべき質問と職場の見極め方で整理しています。
よくある質問
- 志望動機は何文字くらい書けばよいですか?
-
応募先から文字数指定がある場合は、その指定に従います。全国共通で400文字、600文字などと決まっているわけではありません。先に内容を整理し、指定された枠の中で重要な部分を残してください。
- 病院と薬局を両方受ける場合、志望動機はすべて変える必要がありますか?
-
自分が仕事で大切にしたい軸まで変える必要はありません。一方で、なぜその業態か、なぜその病院・薬局かという部分は、それぞれ確認した情報に合わせて整理します。共通する自分の軸と、応募先固有の部分を分けて考えると整理しやすくなります。
- 職場見学へ行っていないと志望動機は弱くなりますか?
-
見学経験そのものが必須とは限りません。まずは応募先が公開している採用情報や募集要項を確認してください。説明会や見学へ参加できた場合は、そこで自分が確認した内容を判断材料として加えると、応募先への理解を深めやすくなります。
- 給与や休日を最も重視して就職先を選んでもよいですか?
-
何を重視するかは本人の生活や価値観によって異なります。給与や休日も大切な比較材料です。ただし面接で「なぜこの職場なのか」を聞かれた場合には、条件とは別に仕事内容や教育、職場の特徴について自分がどう考えているかも整理しておくと説明しやすくなります。
まとめ|志望動機は「自分と応募先の接点」を整理するために使う
薬学部生の志望動機は、最初から完成した文章を作る必要はありません。
まず、
- なぜ薬剤師として働くのか
- なぜその業態なのか
- なぜその職場なのか
を分けて考えます。
なぜその職場なのか分からなければ、応募先を褒める言葉を探すのではなく、複数の候補を比較してみてください。
比較すると、応募先ごとの違いだけでなく、自分自身が就職先で何を大切にしているのかも見えやすくなります。
3分ワークで手が止まった場所があれば、そこが次に考えるべきポイントです。経験が思い浮かばなければこれまでを振り返る。仕事で大切にしたいことが言葉にならなければ自己整理をする。応募先との違いが見えなければ、比較や情報収集へ戻る。
志望動機を書くことは、採用担当者に評価される文章を作るためだけの作業ではありません。
自分が卒業後にどこで、どのように働きたいのかを考えるための材料として使ってみてください。
次に準備する内容に合わせて進んでください。
