薬学部の就職活動でエントリーシート(ES)を書こうとすると、自己PR、学生時代に力を入れたこと、志望動機など、似ているようで役割の違う設問が並びます。
そこで迷いやすいのが、何をどの欄に書けばよいのかという問題です。
- 実務実習の経験を自己PRとガクチカの両方に使ってよいのか
- 研究や勉強しか書くことがなくても大丈夫なのか
- 志望動機と自己PRが似た文章になってしまう
- 指定文字数まで埋めようとすると文章が長くなる
こうした迷いは、文章力だけの問題ではありません。
ESの各設問が何を聞いているのかを分けないまま書き始めると、同じ話を繰り返したり、質問への答えがずれたりしやすくなります。
私は、調剤薬局チェーンで薬剤師の採用を含む人事業務に携わってきました。
この記事では、採用の裏技ではなく、薬学部生が自分の経験や考えを応募先へ誤解なく伝えるために、ES全体をどう設計すればよいかを整理します。
- ESと履歴書をどう使い分けて考えればよいか分かる
- 自己PR・ガクチカ・志望動機で答える内容を分けられる
- 実務実習・研究・学業等からESの素材を見つけられる
- 設問間の一貫性とエピソードの重複を確認できる
- 提出前に確認したいポイントを自分でチェックできる
ESの設問・文字数・提出方法・選考上の扱いは応募先によって異なります。本記事は特定の企業・病院・薬局に通用する採用基準を示すものではありません。実際の応募では、必ず応募先が示す最新の募集要項・入力画面等を確認してください。
結論|ESは設問ごとの役割を分けてから書く
ESを書くときに、最初から400字の文章を完成させようとする必要はありません。
先に、各設問について次の2つを決めます。
- この設問は何を聞いているのか
- 自分は何を1つ伝えるのか
例えば、自己PR、ガクチカ、志望動機の3問があるなら、次のように役割を分けます。
| 設問 | 最初に考えること | 主に使う情報 |
|---|---|---|
| 自己PR | 自分のどの強み・行動特性を伝えるか | その強みが表れた具体的な経験 |
| ガクチカ | どの経験に取り組み、自分が何をしたか | 課題・行動・結果・学び |
| 志望動機 | なぜその応募先を志望するのか | 自分の経験・価値観と就職先研究 |
この3つは関連していても構いません。
ただし、同じ質問に3回答えるのではなく、それぞれ別の問いに答えることが重要です。
エントリーシートは応募書類の一つ
エントリーシートは、採用選考で用いられる応募書類の一つです。
厚生労働省・労働局も、大学・短大等卒業予定者などの採用で、企業独自の社用紙やエントリーシートが使用される場合があることを案内しています。インターネット上の応募用入力画面もESに含まれます。
大阪労働局|適正な応募書類(社用紙、エントリーシート)の使用
履歴書とESの使われ方には応募先ごとの差がありますが、一般には、履歴書が氏名・学歴・資格等の定型情報を中心に記載するのに対し、ESでは応募先が設定した設問へ文章で回答する場面が多くなります。
ここで注意したいのは、ESだけが選考の唯一の判断材料とは限らないことです。
応募先によって、履歴書、ES、成績関係書類、適性検査、筆記試験、面接等の組み合わせは異なります。
したがって、ESは面接へ進むためだけの攻略文章ではなく、応募先へ自分の経験・考え方を伝える応募書類として作る方が分かりやすいです。
薬学部生のESでよく使う3つの設問を分けて考える
自己PR|自分の強みと、それが表れた経験を伝える
自己PRでは、まず自分がどのような強み・行動特性を持つ人なのかを整理します。
例えば、粘り強さ、周囲と調整する力、情報を整理する力、計画を修正する力などです。
大切なのは、強みの名称だけを書くことではありません。
その強みが実際に表れた経験を一緒に示すと、読み手が具体的な人物像を想像しやすくなります。
自己PRの素材の見つけ方と文章化は、薬学部生の自己PRの書き方で詳しく整理しています。
ガクチカ|どの経験で、自分が何をしたかを伝える
ガクチカは、学生時代に力を入れたことを尋ねる設問です。
薬学部生の場合、必ずしも大きな大会実績やリーダー経験が必要なわけではありません。
- 卒業研究・研究室での取り組み
- 実務実習
- 大学の授業・試験勉強
- アルバイト
- サークル・部活動
- ボランティア・学外活動
など、自分が実際に取り組んだ経験を材料にできます。
重要なのは、経験の名前だけで終わらせないことです。
例えば実務実習なら、実習を頑張りましただけでは、自分自身が何をしたのかが分かりません。
次の順に整理すると、経験の中での自分の行動が見えやすくなります。
| 整理する要素 | 考えること |
|---|---|
| 状況 | どのような場面だったか |
| 課題 | 何が難しかった・改善したかったのか |
| 行動 | 自分は具体的に何をしたのか |
| 結果 | その後どうなったのか |
| 学び | 何を理解し、その後どう活かしたか |
結果が大きくなくても構いません。
例えば、うまくいかなかった経験でも、自分がどこを見直し、次にどう行動を変えたのかまで説明できれば、自分の経験として伝えられます。
志望動機|なぜその応募先なのかを伝える
志望動機は、自分の強みそのものを説明する欄ではありません。
自分がなぜその仕事・業態・職場に関心を持ち、応募したのかを整理します。
応募先について十分調べないまま書くと、どこにでも当てはまる内容になりやすくなります。
先に応募先を調べたい場合は、薬学部生の就職先研究のやり方を確認してください。
志望動機そのものは、薬学部生の志望動機の書き方で、なぜ薬剤師か・なぜその業態か・なぜその職場かに分けて詳しく整理しています。
まず設問を、自分への質問に言い換える
ESで答えがずれるのを防ぐには、設問をそのまま眺めるより、この質問で何を答えればよいのかを一度自分の言葉に置き換える方法が使えます。
| ESの設問例 | 自分への質問に置き換える |
|---|---|
| あなたの強みを教えてください | 私はどんな場面で、どのような行動を繰り返しているか |
| 学生時代に力を入れたことを教えてください | 一つの経験の中で、自分は何を考えて何をしたか |
| 当院・当社・当薬局を志望する理由を教えてください | 調べた特徴のうち、何が自分の経験・考えとつながっているか |
| 入職後に取り組みたいことを教えてください | 入職後にどんな仕事や経験へ関わりたいか |
| 研究内容を説明してください | 何を目的に、どのような方法で取り組み、自分はどこを担当したか |
この段階では文章にしなくて構いません。
まず1文で答えを作り、その後に根拠となる経験を足す方が、設問から外れにくくなります。
ESを書く前に経験の材料を3~5個出す
自己PR、ガクチカ、志望動機を一問ずつ完成させる前に、使えそうな経験をいくつか並べておくと書きやすくなります。
私は、最初から強いエピソードを一つ決めるより、3~5個程度の素材を出してから振り分ける方法をおすすめします。
| 経験 | 何をしたか | 何が表れているか |
|---|---|---|
| 研究 | 条件を変えながら実験方法を見直した | 検証・粘り強さ |
| 実務実習 | 患者への説明方法を指導薬剤師と相談して変更した | 相手に合わせた工夫 |
| 学業 | 苦手科目の復習方法を変更し継続した | 計画修正・継続 |
| アルバイト | 新人が迷いやすい作業手順を整理した | 課題発見・共有 |
上の内容は書き方を説明するための架空例です。
薬学生だから実習や研究を書かなければならないわけではありません。
自分が実際に何を考え、何をしたか説明できる経験を選ぶことが基本です。
文章は結論から書くと整理しやすい
限られた文字数で文章をまとめるときは、最初に伝えたいことを示すと読みやすくなります。
例えば自己PRなら、
- 伝えたい強み
- その強みが分かる経験
- 自分が取った具体的な行動
- そこから分かること
と並べる方法があります。
PREP法は文章を整理する方法の一つ
文章構成の型としてPREP法を使う方法もあります。
- Point:結論
- Reason:理由
- Example:具体例
- Point:結論
ただし、PREP法がすべてのESの正解というわけではありません。
研究概要、ガクチカ、志望動機など、質問によって必要な情報は違います。
型に文章を押し込むのではなく、質問へ答えるために必要なら使うくらいの位置づけで十分です。
一文の長さにも全国共通の正解はありません。一文に複数の主張を詰め込みすぎず、主語と述語の関係が分かる文章にします。
ES全体では一貫性と情報の重複を確認する
自己PR、ガクチカ、志望動機を個別に完成させたら、最後に3つを並べて読みます。
ここで確認したいのが、一貫性と情報の重複です。
一貫性は、全部同じことを書く意味ではない
一貫性があるESとは、すべての欄で同じ強み・同じエピソードを繰り返すESではありません。
例えば、
- 自己PRでは周囲と相談しながら課題を解決した経験
- ガクチカでは研究で条件を検討し続けた経験
- 志望動機では実習で感じた関心と応募先の仕事内容
と、それぞれ違う経験を使っても構いません。
3つを読んだときに、人物像が不自然に矛盾せず、本人の経験として説明できることが重要です。
同じエピソードを複数設問で使うこと自体は問題ではない
実務実習の経験が自己PRにも志望動機にも関係することはあります。
その場合、同じ経験を使ってはいけないと考える必要はありません。
ただし、各欄でほぼ同じ説明を繰り返すと、ES全体から得られる情報が増えません。
例えば同じ実習経験でも、
| 設問 | 同じ経験のどこを見るか |
|---|---|
| 自己PR | その場面で表れた自分の強み |
| ガクチカ | 課題に対して自分が取った行動 |
| 志望動機 | その経験から生まれた仕事への関心 |
と焦点を変えれば、それぞれ別の情報を伝えられます。
5分でできるES設計ワーク
文章を書き始める前に、自己PR・ガクチカ・志望動機の設計だけを5分で作ってみます。
1分目|各設問への答えを1文で書く
| 設問 | 1文で答える |
|---|---|
| 自己PR | 私の強みは__________ |
| ガクチカ | 私は______に力を入れた |
| 志望動機 | 私は______という理由で志望する |
2分目|それぞれに使う経験を決める
| 設問 | 使う経験・情報 |
|---|---|
| 自己PR | |
| ガクチカ | |
| 志望動機 | 自分の経験+就職先研究で確認したこと |
3分目|同じ情報を繰り返していないか見る
3欄を見比べて、同じエピソードを使っている場合は、それぞれ違う側面を説明できているか確認します。
4分目|3つを読んだときの人物像を確認する
3回答を並べて、次を確認してください。
- 事実関係が矛盾していないか
- 説明した強みと実際の行動がつながっているか
- 志望理由と応募先研究の内容がつながっているか
5分目|足りない材料を1つ決める
最後に、まだ足りないものを1つだけ決めます。
- 自己PRの具体例が弱い → 経験を掘り下げる
- ガクチカの行動が曖昧 → 自分がしたことを具体化する
- 志望動機が一般的 → 就職先研究を追加する
この状態まで作ってから文章化すると、ES全体を行き来しながら修正しやすくなります。
このワークは完成したESを採点するためではなく、学生が自己PR・ガクチカ・志望動機の役割を分けてから文章を書けるようにするための設計ワークです。
ワーク後に学生同士または支援者と確認する場合も、どの回答が優れているかではなく、設問に答えているか・具体的な根拠があるか・3回答を読んで人物像を理解できるかを見ると使いやすくなります。
提出前に確認したい7項目
文章が完成したら、提出前に次の7点を確認します。
- 設問に答えているか
聞かれていない内容が中心になっていないか。 - 指定文字数・入力条件を守っているか
応募先が指定した文字数、必須項目、ファイル形式等を確認する。 - 事実関係が正しいか
研究内容、実習内容、資格名、日付等に誤りがないか。 - 自分の行動が分かるか
周囲やチームの成果だけでなく、自分が何をしたかが書かれているか。 - 設問間で同じ説明を繰り返しすぎていないか
同じ経験を使う場合も新しい情報が増えているか。 - 人物像が不自然に矛盾していないか
3回答を並べたときに、本人の経験・考えとして説明できるか。 - 面接で自分の言葉で説明できるか
文章を暗記するのではなく、書いた内容を質問されても背景まで説明できるか。
もちろん、最後に誤字脱字・記入漏れ・添付忘れも確認します。
文字数を何割埋めればよい、1文を何文字以内にすればよいという全国共通の基準があるわけではありません。
指定条件の中で、質問への答えと根拠が読み手に伝わることを優先してください。
ESが書けないときは大学のキャリア支援も使える
ESは、一人だけで完成させなければならない書類ではありません。
薬学部でも、ESの書き方講座や個別添削をキャリア支援に組み込んでいる大学があります。
例えば日本大学薬学部では、就職講座でエントリーシートの書き方を扱い、キャリア・カウンセリング・ルームで履歴書・ESの添削や就職相談を行っています。
近畿大学薬学部でも、就職支援年間スケジュールにエントリーシート作成講座が組み込まれています。
東北医科薬科大学薬学部も、キャリア・就職支援でエントリーシートの書き方や面接を具体的に指導しています。
大学によって支援内容は異なるため、自分の大学のキャリアセンター、就職指導課、就職支援室等も確認してみてください。
大学外では、厚生労働省の新卒応援ハローワークでもES・履歴書の作成支援を行っています。
添削を受けるときも、完成文を作ってもらうことだけを目的にせず、自分では伝わっているつもりの部分が、第三者にも同じように読めるかを確認すると有効です。
採用実務を経験して感じること|派手な経験を作る必要はない
ここからは、公的な採用基準ではなく、調剤薬局チェーンで薬剤師採用に携わった私自身の経験からの見方です。
薬学生からESについて相談を受けると、書けるほどの経験がないという悩みがよく出てきます。
しかし、ESを書くために特別な実績を新しく作る必要はないと思っています。
研究、実習、学業、アルバイトなど、すでに経験したことを振り返ると、
- うまくいかなかったときに何を変えたか
- 誰かと意見が違ったときにどう調整したか
- 分からないことをどう調べたか
- 長期間続けるために何を工夫したか
といった、その人自身の行動が見つかることがあります。
私がESを読むときも、肩書きや成果の大きさだけではなく、文章に書かれた経験について、その学生自身が何を考えてどう動いたのか理解できるかを重視していました。
ただし、これは私自身の採用実務での見方であり、すべての企業・病院・薬局が同じ評価基準を持つという意味ではありません。
よくある質問
- ESと履歴書は何が違いますか?
-
応募先によって使い方は異なりますが、履歴書は氏名・学歴・資格等の定型情報を中心に記載し、ESは応募先が設定した自己PR・経験・志望理由等の設問へ回答する形が多くなります。どちらか一方だけで選考されるとは限らないため、応募先の提出書類を確認してください。
- 実務実習や勉強しか書くことがありません。ガクチカに使えますか?
-
使えます。実習、研究、学業等も自分が実際に取り組んだ経験です。経験の名前だけで終わらせず、どんな課題があり、自分が何を考えて何をしたのかまで整理すると、本人の行動が伝わりやすくなります。
- 同じエピソードを自己PRと志望動機で使ってもよいですか?
-
同じ経験を使うこと自体を避ける必要はありません。ただし同じ文章を繰り返すと情報が増えません。自己PRでは強み、志望動機ではその経験から生まれた仕事への関心というように、設問ごとに焦点を変えられるか確認してください。
- ESはすべてPREP法で書いた方がよいですか?
-
PREP法は文章を整理する方法の一つですが、すべての設問に必須ではありません。研究概要、ガクチカ、志望動機など設問によって必要な情報は違います。まず質問へ答える内容を決め、その内容を読みやすく整理するために必要なら使ってください。
- ESは誰かに添削してもらった方がよいですか?
-
必須ではありませんが、自分では気づきにくい説明不足や読み方の違いを確認するために第三者へ見てもらう方法はあります。大学のキャリアセンター・就職指導課等でES添削を行っている場合もあります。添削後も、最終的には自分自身が内容を理解し、面接で説明できる文章にしてください。
まとめ|ESは通る文章より、自分を誤解なく伝える書類にする
薬学部生がESを書くときは、最初からうまい文章を作ることより、設問の役割を分けるところから始めてください。
- 自己PRでは、自分の強みと具体的な経験を整理する
- ガクチカでは、一つの経験で自分が何をしたのかを整理する
- 志望動機では、自分の経験・考えと応募先について調べた内容をつなぐ
そして3つを並べ、同じ情報の繰り返しになっていないか、人物像が不自然に矛盾していないかを確認します。
指定文字数を埋めることや、特定の文章テクニックを使うこと自体が目的ではありません。
質問に答える。具体的な根拠を示す。自分で説明できる。
この3つを満たすことを優先してください。
ESを作る過程は、自分が何を経験し、何を大切にし、なぜその職場を選ぶのかを整理する作業でもあります。
書類を通過するためだけではなく、面接で自分の言葉で話すための準備として使ってみてください。
次に整理したい内容に合わせて進んでください。
主な確認資料
- 大阪労働局|適正な応募書類(社用紙、エントリーシート)の使用
- 厚生労働省|新卒応援ハローワーク
- 大阪新卒応援ハローワーク|就職活動のワンポイントアドバイス
- 日本大学薬学部|就職支援体制
- 近畿大学薬学部|就職支援年間スケジュール
- 東北医科薬科大学薬学部|キャリアサポート(就職関係)
各大学の支援内容、応募先のES設問・文字数・提出方法は変更される場合があります。制度・支援内容は2026年9月10日時点で確認しています。
